うさるの厨二病な読書日記

生涯中二の着ぐるみが、本や漫画、ドラマなどについて好きも嫌いも全力で語ります。【ネタバレ前提です。注意してください】

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鬼のように恐れられ、蛇のように嫌われていたお局さまの話。

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むかしアルバイトをしていたとき、みんなから蛇蝎のように嫌われていたお局さまがいた。

とにかくすぐにキレる、ヒステリックで言葉がキツい。気に入らないことがあると、大の男でも怒鳴りつける。

 

「なに?! なにやっているの?!」

「それやってって言ったでしょう!?」

「〇〇やってって言ったの!! 〇〇!! 聞こえないの!?」

「これ、やったの誰?! 誰がこんなことをしたの!!」

 

年がら年中、誰に対してもこの調子だった。

外見のことを言うのは気が引けるが、顏は釣り目がちで眉間にしわがよっていて、見るからに意地が悪そうで般若のような形相をしていた。

言う内容も「確かに言っている内容は正しいけれど、そんな言い方をしなくても」というものから、「明らかに理不尽だ」というものまで様々だ。

 

お局さまと言い合いになった人もいる。

耐えきれなくてやめていった人も、何人もいた。

やめていった人の中で誰かがお局さまのことを、人事の人に言ったらしい。

しばらくのあいだ、気味が悪くなるくらい大人しかったが、しばらくするとまた元に戻った。

自分が知っている限りでは、後輩は、誰もこのお局さまのことを好きではなかった。(上司や同期では、仲のいい人はいた。)

 

自分は最初のころは、「目をつけられないように、余り関わらないようにしよう」と思っていた。

ただ何となくこのお局さまに、心ひかれるものがあった。

それが何なのかは分からない。

でもその人には、話してみたいと思わせる何かがあった。

 

自分より先輩だった、大学生の男がこんなことを言っていた。

「(お局さま)さんは、オレははじめて会ったときからこの人はいい人だと思っていた」

そのときは、お世辞の一種だろうと思っていた。

ただ自分も何となく心にかかるものがあったので、その辺りから自分の心の赴くままに話しかけてみることにした。

邪険にされることもあったが、だいたいは思ったよりも普通に話してくれた。

(なんだ、いつもこうやって話せばいいのに)

そう思った。

 

そんなとき、ちょっとした事件が起こった。

いつもならば仕事に来てすぐにお局さまがやっている作業を手伝うのだが、他の上司にすぐに別の作業をやってくれと言われたのでやっていたら、お局さまに激怒された。

「すみません。〇〇さんに、すぐこっちをやってくれと言われたので」

と説明したが、聞く耳を持っていなかった。

まあ仕方がない、働いていれば、こんな理不尽なことはいくらでもあると思って、誰もいないところで壁を一発けって気持ちを静めてから、仕事に戻った。

 

数時間後、休憩室に入るとお局さまがやってきた。何か用かな?と思っていると、お局さまは唐突にこう言った。

「さっきはごめんね」

サッキハゴメンネ?? さっき??

ええっ!!? あの数時間前のことを、わざわざ謝りにきたのか???

余りにも衝撃的すぎて、自分が何と返事をしたのか覚えていない。

 

普通じゃないか?? と思う人もいるかもしれないが、お局さまが理不尽にキレまくるのはいつものことで、自分が見た限りでは一回も謝罪しているところを見たことがない。

気付いたころには、お局さまはたまに怒ることはあっても、理不尽にキレることはなくなっていた。

自分がこの職場を辞めるとき、けっこう色々と心配してくれたりもした。

 

いま思うと、色々とつながる部分がある。

自分はこのお局さまのような人と、むかし一緒に仕事をしていたことがある。

 

「自分が慣れていない人に対して、必要以上に厳しい人」

 

「それは仕事への慣れの問題ではないか」と思う人もいると思うのだが、同じような行き違いや仕事上の失敗があっても、初対面に近いころとある程度仲良くなったあとでは対応が天と地ほども違う。

会ったばかりのころは目の敵にされていたのに、慣れてきたらいつの間にかしょっちゅうお菓子をくれたり、仕事を率先して手伝ってくれたりした。

何かきっかけがあったりではないので、こちらは訳も分からず面くらうことになる。

形を変えた人見知り、ツンデレの一種なのだろうと解釈している。

「性格だから仕方ないのだろうけど、もったいないな」と思うのは、デレたあとが本当に優しいからだ。「本当は優しいのに、蛇蝎のごとく忌み嫌われる」というのは、本人にとっても周りにとっても損な気がする。

 

あともう一点、謝られたときに気づいたのが、この人はたぶん相当強がって生きているのだろうなということだ。そういう態度をとらざるえない、何かがあったのだと思う。


「相手が自分の弱いところを攻撃してこない」という信頼がなければ、「謝罪」という行為はできない。「弱みを見せれば、他人というのは自分を攻撃してくる」そういう発想があると、他人の前で頭など下げられない。


「自分の非を他人に対して認められる」のは、謝罪を受け入れてくれると相手を信頼する強さが必要だ。

親しい相手ならばともかく、見も知らぬ人に対してもそういった信頼を抱ける人は、真に強く器の大きい人だと思う。

 

謝罪する側から考えたときは、「謝れない人間は弱い人」

謝罪される側から考えたときは、「謝ってもらえないのは、謝罪を受け入れる器を持っていると相手から信頼されていない」

そうそれぞれの立場で自省することもできる。

 

お局さまはあの時、きっと「この人なら自分の謝罪を受け入れてくれる」と信頼してくれたんだ。

 

そして、なぜお局さまに心ひかれ、こんなにも相手の気持ちが理解できるような気がするのかといえば、自分自身がお局さまとよく似た強がりの心を持っているからかもしれない。そんな風に思った。

 

あのアルバイトではたくさんの人に出会った。年々、記憶は薄れていくけれども、今でもお局さまのことは懐かしく思いだす。

今も蛇蝎のごとく後輩たちに畏怖され、恐れられているのだろうか。

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