11月5日(土)午後9時からテレビ朝日で放送された、柴咲コウ主演ドラマ「氷の轍」のあらすじ&ネタバレ感想です。
「氷の轍」あらすじ
厳寒の釧路で、一人の老人が凍死した。
男の名前は加藤千吉。
かつて「人買い」と呼ばれ、貧しい少女を売り買いしていた男だった。
加藤の体からアルコールと酒が検出されたために、釧路警察署の大門真由と大門の教育係の片桐は、殺人事件として捜査を開始する。
捜査を進めていくうちに、釧路一の水産加工会社の側の海で、またもや男の刺殺死体が発見される。
男の名前は滝川信夫。
大門は、死んだ二人の男が知りあいであり、水産加工会社の女社長・米澤小百合が、二人の接点であることに気付く。
事件の背景には、人には知られたくない小百合の暗い過去があった。
ネタバレ感想
ひと言で言えば、松本清張。
開始十分で、だいたい事件の原因や物語の筋は分かります。
貧しかったゆえの暗い過去を背負う女性が、その影から逃れようとして事件を起こしてしまうという話でした。
謎解き主体のミステリーではなく、深く重い人間ドラマです。
物語は暗い、画面は暗い、音楽は暗い、延々と雪に閉ざされた冬の釧路で物語が繰り広げられるため、気が滅入るくらい陰鬱でもの寂しい雰囲気です。
釧路の暗い冬のような、閉ざされた運命と人生の陰影をお腹いっぱい味わえます。
物語に出てくる登場人物は、全員、孤独で寂しい人たちであり、善良なのに不幸です。
柴咲コウ演じる主人公の女性刑事・大門真由は、赤ん坊のころ、母親が家を出てしまい、一度も会えないまま死んでしまっています。
大門の父親は娘と同じように刑事でしたが、事件の関係者の女性を好きになってしまい、それが理由で左遷させられます。(それが真由の母親。)今は末期ガンを患っており、余命いくばくもありません。
滝川を刺し殺してしまった女社長の小百合は、小さいころ、ストリップ嬢であった母親によって人買いの加藤に売られ、辛酸をなめつくして現在の地位を手に入れました。
しかし、加藤に見つかって過去を理由にゆすられたために、旧知の仲の滝川に加藤のことを相談します。
滝川は若いころ、小百合の母親のことを愛していて、小百合とその姉を人買いから救えなかったことに、ずっと罪悪感を感じながら孤独に生きていました。
滝川は肝臓ガンで余命いくばくもなかったために、小百合に相談されて加藤を殺します。
ずっと独身で孤独に生きてきたために、「小百合を救うことだけが生きがいだ」と話す滝川を、小百合はゆすられていると勘違いしてしまい、恐怖のあまり殺してしまいます。
小百合の水産加工会社には、小百合が幼いころ行き別れた姉・智恵子が身元を隠して清掃員として働いていました。
智恵子も結婚せずずっと孤独に生きており、小百合を見守るために小百合の会社に勤めたのです。
小百合が滝川を刺し殺してしまったことを知った智恵子は、小百合の身代わりとして警察に自首します。
という、何の救いもない物語でした。
ほぼ全員が孤独な牢獄のような人生を生き、遠くから愛する人を守りたいという願いすら叶えられず、全員不幸になって終わります。
特に小百合に殺された滝川の人生は、一体、何だったのだろうと思います。
自分の愛する人の子供たちを守れなかった罪悪感を生涯引きずって孤独に生きてきて、やっとその罪悪感を払拭できる機会を得たら、守りたいと思っていた当の本人に殺されてしまうという。
悲惨すぎて唖然とします。
かといって、暗い過去にずっと苛まされてきて娘を守りたい一心で疑心暗鬼になってしまった小百合の気持ちも分かります。
そして、
「ストリップ嬢の自分と一緒にいたって、子供たちが幸せになれるはずがないでしょう」
と言って、金で子供たちを手ばなしてしまった小百合の母キャサリンの気持ちもわかります。
登場人物全員に感情移入してしまい、その気持ちになって「運命というものの苛酷さ」を呪うしかない物語でした。
ただ重く救いのないドラマですが、後味はそれほど悪くありません。
運命ゆえに大変な罪を犯してしまった小百合ですが、智恵子が生き別れの姉であり、ずっと自分を守ろうとしていてくれたことに気づいた、ずっと孤独に生きてきた智恵子も、ようやくその愛情を妹に届けることができたのだと思います。
幼い子供に戻ったかのように泣きながら姉の名前を呼ぶ小百合の姿を見て、「こんなに残酷な運命でかわいそう」と思うよりは「よかったね」と思いました。
過去をぜんぶ解放することによって、小百合はようやく本当の意味で過去と決別できたのだと思います。
現実問題としては、これから殺人の罪で裁かれるわけだから運命はさらに苛酷なのだろうけれど、米澤小百合という人物の物語としては、苛酷な運命を自分のものとして受け入れられたので、これからの人生は、過去に振り回されることはないだろうと思えました。
ロマンチスト罪悪感男子
小百合に殺された滝川と、大門の父親である史郎は、ドラマの中でも「よく似ている」と言われます。
「愛した人を救えなかった過去があり、その罪悪感をずっと引きずって生きており、その愛した人に操を立てているため、ずっと孤独に生きている」
そういう人なのですが、自分はこういう人を「ロマンチスト罪悪感男子」と命名しています。
「自分が幸せになることを許さない」「幸せにならないことで、罪を償っている」みたいなタイプです。
「過去に操を立てる」というのは、男性独特の感覚のような気がします。女性の登場人物で、余りこういうタイプを見たことがありません。
よく分かりませんが、男の美学のようなものかもしれません。
特に柴咲コウ演じる主人公の父親である大門史郎は、独特の哀愁と孤独が漂っていて恰好よかったです。娘にさえ、うまく心を開けなさそうなところがまたよかった。
柴咲コウの顎のラインが美しすぎる
柴咲コウの顔って、見れば見るほど美しいなと思います。横顔とか美しすぎて見とれます。
特に顎のラインがまったくたるんでいなくて、空間に線を引いたみたいに美しいです。彫刻みたいですよね。
来年の大河ドラマはまったく見る気がなかったのですが、柴咲コウの美しさを拝むために見ようかなと気持ちが揺れました。
登場人物の年齢層が高いため、俳優さんもベテランばかりで、全く何のストレスも感じずに、どの登場人物にも感情移入してみることができました。
製作陣の「こういうドラマが作りたいんだ」という熱い思いが全面に出たドラマを、これからも見たいです。
原作本です。いい話でしたが、ちょっとストーリーラインが王道すぎたかな?という気がします。