深木章子の「鬼畜の家」を読んだ。
「鬼畜の家」あらすじ
元刑事で私立探偵を営む榊原は、知人を介して、保険金にまつわる事故の調査を依頼される。依頼主である少女・由紀名から聞かされた話は、とてつもなくおぞましいものだった。
事故死した母親は、金のために自分の周りの人間を次々と事故や自殺に見せかけて殺していた。最初は夫を、次に親族を、そして次に娘を…。
天涯孤独の身の上となった由紀名のために、榊原は彼女の母親と兄の事故死の調査に乗り出す。
ネタバレなし感想
本文のほとんどがインタビューされている人間が話す形式になっていて、すごく読みやすい。展開もスピーディで面白く、先が気になって読みだすととまらない。
「面白い小説が読みたい。何かないかな」
というくらいの気持ちならば、十分満足できる面白さだと思う。
そういう人ならばおススメ。買って損はしないと思う。
ただ…。
*以下、結末まで完全にネタバレして語ります。ネタバレされたくないかたは、読まないでください。
ネタバレあり感想
自分もそうだけれど、恐らくこの手のあらすじの本を読む人って、人間の底知れぬ暗さや怖さ、ダークな展開を求めて読むのではないかな、と思う。
そういう意味では、かなり期待はずれ。
それは設定がダークではない、特異性や狂気性がない、という意味ではなくて、そういうものはむしろ有り余るほどある。
特に「鬼畜の家」である北川家全員、どこかしら常人とは違う異常さを持っている。でも、その異常さひとつひとつに深みというか、リアリティがほとんどない。
「幼女への性的虐待」「放火殺人」「近親相姦」「保険金殺人」「動物虐待」「家族殺し」と余りに異常なものを詰め込みすぎていて、しかもそのひとつひとつが特に深く掘り下げられていないので「ふうん」と通りすぎてしまう。
これらのキーワードに比べて、登場人物が余りにステレオタイプすぎるし、背景事情の物語も陳腐で、逆にびっくりする。
蓋を開けてみれば、
母・郁江は殺しまではする度胸がない、ただの金の亡者。
兄・秀一郎は母の言いなりになる、意志薄弱な男。
妹・由紀名はただの頭のよくない子。
姉・亜矢名が犯行を起こした動機は、不倫した男に振られたから。
「家族殺し」までするほどの登場人物だから、どんな背景を抱えているのか、どんな闇があるのかと期待していたら、一行で説明できるような人物設定だったことにがっかりした。異常性や狂気というのは、正常さや平凡さの中に埋め込まれて初めて異常や狂気になるのであって、異常や狂気だけを羅列されると、それもまた平凡になってしまう。
最後のどんでん返しはびっくりしたけれど、自分を捨てた男に復讐するためという動機なら、割と行き当たりばったりというか、何だかよく分からない計画だなと思った。
人間の悪意や怖さって意外と描くのが難しい、ということはよくわかった。特異な設定だけを並べれば、怖くなるわけじゃない。
かなり辛口の評価になったが、これは「あらすじから、ダークな展開を期待して読んだ場合」の感想で、「こういうあらすじの物語を読みたいけれど、余り重すぎる話はちょっと…」という場合は、評価が高くなる。
内容は重いのだけれど、登場人物に深みがなく感情移入のしようがないので、気持ちが重くならずに読み進められ、読後感もまったく悪くない。文章も読みやすい。
別に物語というのは「重ければ重いほどいい」わけでもないので、これはこれでいいかもしれない。