うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

社会人になってから、日本史を勉強したい人におすすめ! 中央文庫版「日本の歴史」が面白い。

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昔、読んでいた中央文庫版「日本の歴史」を読み直している。

全26卷+別卷の構成だ。

前は図書館で借りて読んでいたのだが、なかなか読む時間がとれないことと、前よりも読むのに時間がかかるようになっているので、購入することにした。

 一冊税込で1337円、別巻も含めて全冊で4万円弱。高いと見るか安いと見るかは人それぞれだけれど、歴史をひと通り学べる。

とりあえず、大まかな流れさえ怪しい大正時代と昭和初期を読み返している。

 

歴史の流れを一通り知りたい、という人におすすめ。

ひとつひとつの出来事を細かく見るのではなく、大きな歴史の流れを追っているので、ある程度知識を持っている人には物足りないかもしれない。

逆に自分のように「歴史の出来事の名前や年表や有名な人、事件の名前くらいは知っているけれど、それがどういう背景で、どういう流れの中で起こったのか全然分からない、もしくは忘れた」という人にとっては、日本史の大まかな流れがつかめて面白く読めると思う。

 

国内、国外の政治上の出来事も、その関連性もきちんと書かれているし、どの出来事がどう影響し合っていて、どういうことが起こったのか、という物事の因果関係や複雑な政治情勢も分かりやすく整理されている。

また国家の動き以外の、民間人の様子や地方の情勢などもある程度触れられているので、その時代の雰囲気も想像しやすい。

 

著者ごとに着眼点が違う。

 中央文庫版「日本の歴史」は、一巻ごとに著者が変わるのが面白いところでもあり、問題点でもある。

着眼点が人によってまったく違うので、巻によって読み味が違う。

 

著者はそれぞれその時代の専門家なのだが、歴史へのアプローチ方法が違うので、例えば同じ事件のことを書いていても歴史的に重要な意義を持つ、という観点で書く人もいるし、その事件自体はそれほど大きな意味を持たない、という意見もある。

あくまで「この著者の見方だ」という前提が必要になってくると思う。

ただ、この前提さえ持っていれば、むしろその齟齬がこのシリーズの面白いところのような気がする。

 

著者たちはなるべく公平で中立的な視点で書こうとしているのだろうが、それでも歴史の見方の違いやアプローチの方法の違いは出てくる。

例えば23卷「大正デモクラシー」は、藩閥と政党の争いや駆け引き、また政党の成り立ちや分裂に非常に力を入れて書かれている。大正デモクラシーの文化的側面やその内実や後世への影響のようなものは余り書かれておらず、大正デモクラシーを生み出した時代はどういうものだったか、ということに力点が置かれている。

 

この辺りは「大正デモクラシー研究の二つの潮流」と題して、解説の中で著者がどういうスタンスで歴史を見ていたかということも詳しく書かれている。他者による解説も読むと、その著者がこの時代の研究者の中で、どういう立場をとり、どういう視点を持っていたかということが分かる。

また24巻「ファシズムへの道」の著者は、経済が専門分野なので、世界恐慌など当時の世界の経済状況から国際情勢を見たり、経済政策に対する見解も書いている。

 

自分はこういう著者ごとの歴史へのアプローチの違いも面白いと思うけれど、もう少しフラットな視点を重視して欲しいという人もいるかもしれない。

 

著者ごとに文章の書き方が違う。

文章の書き方にも非常に差があり、そちらのほうが気になった。

23卷と24卷は記述の仕方が真逆と言っていいほど違う。

23卷の「大正デモクラシー」は、「事実の記述」というか、冷静な論文調なので、文章がなかなか頭に入ってこない。小説に例えるのならばトマス・ピンチョンのような感じで、文章を読んでいてもまったく映像が思い浮かばない。読むのに苦労した。

人物のキャラ立ても一切なされていないので、突然ポンと人名を出されると誰が誰だかわからない。

政党間の抗争も激しく、しょっちゅう分裂や合流が起きるので、自分で整理しながら読み進めないと、すぐに頭が混乱する。

頭を整理しながら集中して読めばもちろん面白いのだが、記憶のフックを作っておいて前後関係をつなげることも自分でしなければならないので、なかなか大変だ。

 

自分は山川出版社の「日本史用語集」を購入して、その人物や出来事の情報をある程度頭に入れてから読み進めるようにした。

 
高校生のときにお世話になった人も多いと思う。懐かしい。
 
基礎知識が十分ある人はすらすら読めるだろうけれど、首相クラスの有名人以外はほとんど知らない自分は、これなしで読むのは難しかった。値段も1000円弱と良心的だし、重宝している。
 
24卷の「ファシズムへの道」は、23卷とは逆に非常に読みやすかった。

 

人物に対する著者の評価や見解も載っているので、人物像が浮かびやすい。

そういう人物像が描かれたうえで事件が語られているので、映像がすんなり頭の中に浮かんでくる。

 

例えば昭和初期に総理大臣になった田中義一の評であるが、

「いささか小ずるいところのある野心家であったことは事実としても、それほど政治力を持った大悪党とは思えない。むしろ決断力のないけちな人物で、大きな見通しのうえにたって日本を率いていくだけの力量がなかったために、とりまきに勝手なことをされ、大ミソをつけたということであろう。凡俗な人物が重大な責任ある地位につくことは、しばしば大悪党が権力を握ることよりも悪い結果を生むものである」

(引用元:「日本の歴史24卷 ファシズムへの道」大内力 中央文庫p109)

 

こんな風にクソみそに言われている。

こんなことを言われたのが自分だったらショックで倒れそうだが、本の読み手としてはとても面白い。

田中については、大らかで気さくな面もあったという評もあるので著者の見方を鵜呑みにはできないが、このように人物像や評価が描かれていると、本自体は小説のようにとても面白く読める。

 

この他にも枢密院で権勢をふるった伊東巳代治のことを「意地悪爺さん」と呼んだり、田中内閣で内務大臣として選挙干渉を行った鈴木喜三郎を「暴力団の親分のようなあだ名をつけられたのも、そのやり方が余りに悪どかったため」と評するなど、物語の登場人物のようにキャラが立つ描き方をしている。

 

23卷の著者である今井清一のように淡々と事実を記載して、事件などに対してのみ控えめに自分の見解を添えるのが、もしかしたら研究者としては標準的な態度なのかもしれない。だが正直なところ、24卷の大内力の文章のほうが読んでいてずっと面白い。

好みにもよるかもしれない。

 

それぞれ独自の見解、文章の書き方はあるものの、どの著者も自分の知識を出来るだけ駆使して、誠意をもって歴史を記していることは間違いないと思う。

歴史に興味がある、とりあえずもう一度勉強したいからその入口として、歴史の流れをつかみたい、という人にはおススメのシリーズだ。