うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【結末の説明&感想】有田イマリ「はっぴぃヱンド。」

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有田イマリ「はっぴぃヱンド。」が全5卷で完結した。

筋が入り組んでいる部分があるので、自分の頭を整理しがてら、内容をまとめていきたい。

2卷までの感想はコチラ↓

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「はっぴぃヱンド。」はどういう話だったか。

「2052年7月11日に『茜色の雪』が降り、環ヶ原が壊滅することを防ぐ」

ために、2052年に「はっぴぃヱンド」という名前のタイムトラベルマシンを使い、相田茜は1996年にやってくる。

2047年から既にタイムリープしていた大場さやかが用意した環ヶ原の施設を使い、記憶継承の実験を完成させようとしていた。

その実験の内容が1997年の6月4日(さやかのクローンは3日)から7月11日までのループを、1997年から2052年まで繰り返す、というものだった。

自ら首謀者となって自分自身を導いていた茜だが、首謀者である自分を殺したあとに、今度は自らが実験を主導する首謀者となるべく、1996年にタイムリープする。

茜とさやかの二人がタイムリープをすることで繰り返される1996年から2052年が、この話の終わり時点で367回繰り返されている。

物語の最後に茜が「大きな変革がない限り、結末は変わらないのでは」と言って自分のクローンに首謀者役を頼み、本体は外の世界にさやかに会いに行っているが、一巻の最初で茜が「本体」を目撃していること、6月4日の日誌の内容が変わっていないことを考えると、恐らくこの「大きな変革」もループに既に組み込まれているのでは、と思う。

367回めと368回めは大きく変わらないのではないか(だからすでに367回も繰り返されている)ということが示唆されている。

 

ネタバレ感想&総評

前回の2卷までの感想にも書いたが、この話はありがちなループものに見せかけて、様々な独自の試みをしている。

茜の仲間を思う気持ちや決死の覚悟、「ただ友達と笑顔で過ごしたい」という純粋な気持ちすら、さやかの妄執から生まれた巨大な因果に組み込まれている、という結末はかなりゾッとさせられる。

 

ただ「考えさせる」ことと「感じる」ことを、どちらも同じレベルで読み手に要求するのはさすがに無理がある。

「考えるな、感じろ」の言葉でも分かるように、「考えること」と「感じること」は本来相反するものだ。

「はっぴぃヱンド。」は単純に文字数も多いし起こっている事象も入り組んでいるので、読み手に立ちどまって情報を整理させたり、考えたりすることを要求する。そうしなければ基本的には、話の流れを理解できない。

「感じること」はキャラたちの心情にピタリと心を寄り沿わせ、理屈抜きでその感情の流れについていかなければならない。

一方で読み手に立ち止まって考えることを要求し、一方で読み手にキャラの心情についていくことを要求するのはかなり難しい。

考えることに注力している場合は、登場人物たちの執念ともいえる他のキャラへの入れ込みようについていけず、感じることに注力している場合は、長い説明セリフがうざったくて仕方がない。(しかもその説明が余り上手くない。)

どちらにもついていけない場合は、「この物語は、作者の中だけで進行している」という置いてきぼりの感覚になる。

読み手と作品の相性が悪くて結果的にそうなることはある。どんな読み手であっても物語の中に百パーセント連れ込める創作はない。

しかし「はっぴぃヱンド。」の場合は、構造的に自らその難易度を大きくあげてしまっている。

そしてそのハードルの上げ方の割には、力量がついていっていない。

茜とさやかの記憶力のすさまじさ、チップ、クローン、タイムトラベルの設定がご都合主義に感じてしまうなど粗も目立つ。

登場人物の描き分けが上手くないことも、登場人物への感情移入を妨げる。画力的にもそうだし、キャラ設定的にもエピソードの組み込みかたもすんなりと感情移入するためにはイマイチな手際だ。

厳しい言い方になってしまうが、この話を描くにはすべての部分で力が及んでいないのではないか、というのが正直な感想だ。

 

ただ逆に言えば「それなりの力がなければこの話は描けない」と感じるほど、話のアイディア自体は面白い。

自分が「はっぴぃヱンド。」で一番好きな点は、ループしている人間が試みる「トライ&エラー」をかなり詳細に検証している点だ。仮説を立てて、その真偽を今持っている情報に基づいて精査し、その仮説を検証するために行動する。そしてその行動結果を情報としてフィードバックする。

他のループものでも大ざっぱにはやっているが、ここまでそのサイクルを詳細に意識的にやっているものは初めてだ。イレギュラーなことが起こった場合、それがなぜなのかと推測する過程なども読んでいて楽しい。作中で言われているように実験に近い。

そういうこの話にしかない面白さを持った作品であり、きちんと読み込んで初めてそれが分かる、そうすると荒削りな部分にも愛着が湧いてくる。

 

しかしその愛着がわくまでが茨の道だ。

自分もこの記事を書くために何回か読み返していたが、そういう理由がなければ読み返さなかったと思う。

物語の入口部分で読み手に二の足を踏ませてしまうのは、面白いものを持つだけに残念に思う。

[まとめ買い] はっぴぃヱンド。