先日、「書評」が話題になっていたので、「書評を読んで読みたくなった本」を上げてみようかと思いたった。
読売新聞の「書評欄の読書委員が選ぶ『2021年の三冊』」を読んで読みたくなったもの、その中で「特に読みたくなったベスト3」を選んでみた。(青字は書評からの引用箇所)
書評について考えたことと、自分自身は動画よりも文章が好きだがそれは何故か、文章のどこが好きかについて考えたことはコチラ。↓
「書評と感想と批評、評論の違い」と「動画と文章の違い」について考えたこと。|うさる|note
最後に「2021年に自分が読んだ本の中でおススメしたいもの三冊」も紹介したい。
「書評・読書委員が選ぶ『2021年の三冊』」を読んで読みたくなったもの。
・梅内美華子(歌人)選
・藤沢周著『世阿弥最後の花』
世阿弥については、父親の観阿弥と共に室町文化を代表する能楽(猿楽)師、ということしか知らず、最後は佐渡に流刑になり晩年は不遇だったと知らなかった。そう言えば日本史の授業でやったような気がする。(うろ覚え)
「巨大な能楽師の身体と思想が顕現する圧巻の書」という言葉に心惹かれた。
芸妓(武芸やスポーツも似ている)は身体性と思想が一体化しているところに妙があると想像しているが、自分はそういうことにとことん疎いので読んでみたくなった。
・苅部直(政治学者・東京大教授)選
・リービ英雄著「天路」
「主人公も、母を失った悲しみを抱えながら、チベット高原の聖地をさまよい歩いていく」
欠落や喪失を抱えた人間が何かを求めて、未知の大地や空白の地を旅をする話、という筋だけで心惹かれる。
単純に旅をする話も好きだが、「聖地」ということは宗教の話も出てくるのかなと期待が膨らむ。
「アフリカの白い呪術師」的な話だと嬉しい。
表紙もいい。
・長田育恵(劇作家)選
・ジュリア・フィリップス著「消失の惑星」
タイトルからSFかなと思ったら、「幼い姉妹の失踪を背景に描かれる十三人の女性の素描」「文章の怜悧なカメラは彼女たちの内面をありのまま描き出す」
特定の事件をモチーフにした心理ドラマのようだ。
主要登場人物が女性だけのようなところと、舞台がカムチャツカ半島なところが面白そうだと思った。
カムチャツカ半島の生活や慣習なども出てくると嬉しい。
・佐藤信(古代史学者・東京大名誉教授)選
・高橋昌明著「都鄙大乱」
「源平合戦の社会激動の全体像を、スケール大きく描く」
歴史を書いたもの(創作・ノンフィクション)は、比較的「政治的にどうか」「歴史的にどうか」「支配階級にとってどういうものか」という視点が多く、社会の全体像を見せてくれるものを余り読んだことがない。(探せばあるのだろうが)
「炎立つ」が東北の田舎の戦が都にどんな影響を与え、社会全体にどういう意義があったかという視点が強く面白かった。
これも「社会激動の全体像」を描くところが面白そうだなと思った。
・仲野徹(生命科学者・大阪大教授)選
・和田静香著「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた」
完全にタイトルで選んだ。
「相撲ライターの和田静香さんが、立憲民主党の小川惇也衆議院議員に、どすこい精神でぶつかり稽古のように挑んだインタビュー本。ど迫力!」
こういう書評は読みたくなる。
選者の仲野徹さんは生命科学者なのに(と言ったら失礼かもしれないが)、文章がキャッチーな感じで惹きつけられる。
おススメの三冊は「どれもむっちゃおもろい!」そうです。
・国分良成(国際経済学者・前防衛大学校長)選
・佐藤亮著「米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界」
米中関係は今後の世界の重要事項であり、日本にとっても重大事なので、要点や経緯をまとめたものを読んでみたいと思っていた。
「米中関係の歴史と現状を簡潔に論じた入門書兼啓蒙書」
色々な見方を知っておいたほうがいいと思うので、何冊か読みたいけれど「入門書」とうことなのでまずは読んでみようかなと思った。
・宮部みゆき(作家)選
・佐藤究著「テスカトリポカ」
読もう読もうと思って読めていない「テスカトリポカ」。
現代の人間社会の闇を古代宗教の神の呪術的な力に重ねている、という発想だけで気持ちが爆上がりする。
これほど文明が発達した現代でも、人間の心の内面では暗い部分を支配する神の力が働いている。そういう話は大好きだ。
書評を読んで、読んでみたくなった本ベスト3
★三位
・瀧澤弘和(経済学者・中央大教授)
・アクセル・ホネット著「社会主義の理念」
自分がこれまで生きてきた、今も生きている社会とは違う思想は実感が出来ないし、否定しがちな気持ちがわくが、一度フラットな気持ちで「社会主義」とはどんなものだろうと知りたいと思っていた。
「社会主義の理念を経済一辺倒なものから救い出し、現代化する。社会主義は時代遅れという固定観念から解放してくれる」
と紹介されているが、経済学者の選者が「経済一辺倒なものから救い出し」と書いているところが面白そうだなと思った。
★二位
・加藤聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)選
・塩川伸明著「国家の解体」
「ソ連崩壊の過程を緻密に検証した大著」
というだけで、もの凄く面白そうだが、いかんせん値段が四万千八百円。
ううむ。
★一位
・栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)選
黒川創著「旅する少年」
目的地がなくそこら中をふらふら旅をする話が大好きなので、これはドンピシャだ。
「できるだけ長く一人旅を続けたかった(略)少年の記録」という書評欄の紹介もいいし、本書の帯につけられた「この世界の輪郭を確認したかった」という紹介文にグッとくる。
帯文はやはり大事だな。
自分が2021年に読んだ本の中からおススメ三冊
余り読めていないのだが、読んだ本は全部面白かったので悩む。
★「絶望にはどういう性質があるのか」 井上靖著「補陀落渡海記」
自分の好みにドンピシャだったのはこれ。
出口のついていない箱のような船に閉じ込められて、極楽浄土を目指すために沖に流される風習、補陀落渡海をやらざるえなくなった僧侶の葛藤を描いた話。
粗筋を書くと「だいたいこういう話ではないか」と思いがちなことに反して、不思議なほどテーマが不明瞭なところが良かった。
自分は「絶望というものの性質」について描いた話ではないかと思った。
「絶望について」描いているのではなく「絶望の性質」について。
短編で読みやすいので、ぜひ。
★「天安門事件を当事者のインタビューで再構築」 安田峰俊著「八九六四 完全版」
「天安門事件」は大まかなことは知っているが、詳細は知らないなと思い読んだ本。
実際に事件を経験した人のインタビューで構成されているので、頭の中に映像が浮かぶくらい生々しい。
現場の実際の状況、事件の背景、学生の中の主導権の移行の構図、中心にいた人物たちと周囲にいた人間たちの考え方の落差など、あらゆる事象や視点が包括されているところがよかった。
何事もそうだけれど、外から見た自分が考えるほど単純な話ではないんだなあと感じ入った。
内側から見た香港の状況も興味深かった。
★「最恐のプリンセスの自意識に支配された世界を描いた、三国志という枠を超えた恐るべき小説」 江守備著 「私説三国志 天の華・地の風」
思い出して読んで良かった、と思ったのはこれ。
この話で描かれた孔明の人物像は、「三国志が」「BLが」という枠組みを超えた特異さと秀逸さがあるので、よほど趣味に合わないという人以外にはぜひお薦めしたい。(前半は性描写がかなり多い)
思ったよりずっとしっかりと三国志をやっている、というより、三国志の流れをある程度知らないと、話についていきづらい。
……すみません、自分が「BLだろ?」という偏見を持っていた反省をいま述べています。
ひと言で言うなら「最恐のプリンセスの巨大な自意識で支配された恐るべき世界」の話。
余りの面白さにnoteでずっと感想を書いていた。
年々、本を読むスピードが遅くなっているのだが、今回書評を読んで読みたいと思った本を始め、まだまだ読みたい本がたくさんあるので来年も多くの本を読みたい。