NHK「真田丸」第49回及び最終回の感想、総評です。
前回第48回「引鉄」の感想はコチラ↓
第49回&最終回の感想
「真田丸」らしい最終回だったと思いました。
最後豊臣勢は破れ、主人公の信繁は死んで話は終わりますが、悲劇的な要素をいっさい入れなかった点が大きな特徴だったと思います。
最後まで、
「戦国の世で、義という己の生き方を貫いた男の爽快な物語」
で首尾一貫していました。
茶々や秀頼の死も見せず、内記や作兵衛の死もそれほどお涙頂戴にせず、キリや大助の生死も見せず、信之が弟の死を嘆く姿を見せず、むしろこれから新しい世の中でよい領主として生きていくだろうことを匂わせて終わらせています。
最終回だけを見ると「さすがにちょっと不自然では?」と思います。
ただこのドラマ全体を通して考えた場合、これ以外の構成はなかったのではないかなと思います。
生きること、勝つこと。それを決してあきらめないこと。最後まで希望を持つこと。
それが信繁の生き方だったのですから、最終回に死の描写とそれに伴う嘆きの描写を入れるのは、このドラマにはふさわしくなかったと思います。
「真田丸」総評
大河ドラマを見るのはン年ぶりでしたが、本当に見て良かったです。
見る前は、「真田幸村って有名だけど、歴史の表舞台に出ている期間はそんなに長くないし大丈夫か?」と思っていましたが、一年間、飽きることなく楽しむことができました。
色々素晴らしいところがあるドラマでしたが、個人的に一番よかったのは、歴史上の人物の描き方が通説とおりではなかった点です。
・猜疑心が強くて、怖くて残酷なところもあるが愛すべき人物だった秀吉
・無邪気で明るいが、誰にも心が開けない茶々
・頭がよく熱い心を持っているけれど、人付き合いが苦手な三成
・三成と理解し合いたいと望んでいた加藤清正
・義に殉じたかったけれど、弱い心も持つ上杉景勝
・ずんだもち政宗
・父親に反抗する気概を持ち、冷酷な面を持つ秀忠
今までのドラマで作られた歴史上の人物像ではない、新たな魅力を持った登場人物として描いてくれたので、「この人は、どんな風に描かれるんだろう」と楽しみでした。
その中でも、自分が特に印象に残っている人物が二人います。
一人は通説では残酷な性格を持ち、殺生関白と呼ばれていた豊臣秀次。
「真田丸」の中では、一番好きな登場人物です。
誰に対しても心優しく、豊かな感性を持った人物として描かれていました。
「天下人豊臣秀吉の甥であり、跡継ぎ」という、秀次自身に最も向いていない境遇に生まれ、しかし必死に秀吉や周りの期待に応えようとする。しかしその自分の気持ちよりも、周りの気持ちを優先する優しさが仇となり、秀吉とどんどん気持ちがすれ違っていく姿が、気の毒で仕方がありませんでした。
「その時代、その立場に生まれた自分の運命を受け入れるしかない」
そう言われてみればそうかもしれませんが、その境遇にまったく不必要な秀次の良さは、誰にも認められないんですよね。
「ゲーム・オブ・スローンズ」のシオンもそうですが、
「周りの人間の気持ちや境遇を考えて、本来の自分でないものに必死でなろうとする人」って、本当に見ていてかわいそうです。
「あなたはあなたでいいんだよ」って、誰か一人でいいから言ってやれよ、と周りの奴らをどつきたくなりますね。
もう一人は徳川家康。
「真田丸」の徳川家康が大好きです。
従来の説である、陰険で計算高くて、老獪で抜け目ない人間でありながら、案外情が深かったリ、お茶目でかわいらしいところも持っている、とても魅力的な家康でした。
三谷幸喜がテレビのインタビューで
「歴史を知っている我々は家康が天下をとるという結果を知っているけれども、家康だってきっとギリギリだったと思う。天下がとれるかどうか、不安で仕方がなかったと思う。そういう部分も描きたい」
ということを語っていました。
これを聞いて、その通りだなと思いました。
家康も、ギリギリのところで常に自分の命運を天秤にかけながら戦っていたんだろうなと思います。
自分は最後のほうは、家康に肩入れして物語を見ていました。
家康はどんな手を使ってでも天下をとるという、腰の据わったところが好きです。
第49回で「家康も自分に義がないことは知っているはず」というセリフがありましたが、個人的にはこういうことは言って欲しくなかったなと思います。
それを言ってしまうと、家康の生き方自体が否定されてしまうような気がします。
「義に生きた」主人公の信繁と対比させたいのは分かりますが、個人的には大阪首脳陣を見ると「何でこんな奴らのために、義とか考えなきゃいけないの?」としか思えませんし、第一、太閤秀吉自身、そんなに義に厚い生き方をしたわけでもないし。
信繁の生き方もいいけれど、家康の生き方もいい、でいいと思うんですよね。
「人生とは、重き荷を背負って坂道を上るようなものだ」
この言葉が表す家康の人生は、義やら何やら考えている場合じゃなかったんじゃないかなと思います。
ただそうは言っても「真田丸」は、「この時代に生きた人たち」への愛情と敬意が全編を通して貫かれていたと思います。
端役に至るまで「物語を動かすためだけに存在している」人物が、一人も存在していませんでした。
みんな自分の人生を悩み迷い、必死で生きる登場人物ばかりでした。
製作陣、俳優陣の皆さま、長い期間お疲れさまでした。
記憶に残る素晴らしいドラマをありがとうございましました。