ミステリーの醍醐味は謎が鮮やかに解明されること
ミステリーの最も大きな醍醐味と言えば、
「最初に提示された謎が鮮やかに解かれる」
「なおかつ、その解答が非常に意外なもので驚かされる」
そのため大きなカタルシスが得られる点だと思います。
今回は物語としてもとても面白く、最初から最後まで夢中になって読み進められ、しかも最後は想像外の解答で、大きな驚きを味合わせてくれるミステリー小説をご紹介します。
ミステリーの最も大きな謎となる「犯人は誰か?」
それが物語の最後の最後まで分からず、しかも意外なものばかりです。
犯人が意外なミステリー五選
「三つの棺」(ジョン・ディクスン・カー)
あらすじ
シャルル・グリモー教授は、ある夜、酒場で「奇術師フレイ」と名乗る男に脅される。
「世の中には棺から抜け出すことができる人間が存在する。自分と弟もその一人だ。弟はもっと危険なこともできる。今度、弟があなたの下を訪れると思う」
不穏な空気を察したフェル博士と警官が、2月9日の雪の夜、グリモー教授の自宅を訪れる。
しかし時はすでに遅く、グリモー教授は少し前に来た訪問客によって殺されていた。しかし、その訪問客が死体がある部屋に入るところは見たが、出るところは家の人間は誰も見ていなかった。
同じ夜、教授を脅した奇術師フレイも何者かによって射殺される。
フレイは近距離から射殺されたにも拘わらず、彼の周りの道路には殺人犯の足跡がひとつも残っていなかった。
おススメポイント
「密室の王様」と言われ、生涯をありとあらゆるパターンの密室トリックを使った小説を編み出すことに捧げたカーの渾身の一作。
カーの作品の中で最も有名で、五指には入る傑作。
過去の不吉な因縁から始まる物語で、最後までその不吉な雰囲気に満ちた物語を存分に楽しめる。
有名な「フェル博士の密室講義」も入っており、密室ミステリーが余すことなく味わえる。
多くのミステリーを読んだことがある人にとっては、「犯人が〇〇〇のパターンは見たことがある」ものかもしれない。
ただ、本作以上に物語としてうまくできており、演出が鮮やかで驚かせてくれるものはないと思う。
カーは駄作と傑作の差が激しいことで有名だが、傑作群は何度読んでもすごい。
こんなことカー以外は誰も思いつかないし、思いついてもやろうと思わない。
駄作も傑作もカーの作品は、カーにしか書けない。
「カーキチ」と呼ばれるほどのマニアがいるのは、この辺りが原因かもしれない。
その他のカーの驚けるおススメ作品
「ユダの窓」「火刑法廷」「妖魔の森の家」「貴婦人として死す」
「人形館の殺人」(綾辻行人)
あらすじ
死んだ父親の持ち家である「緑影荘」に引っ越してきた飛龍想一。引っ越してきたときから、奇怪な出来事に遭遇するようになる。身の回りで起きる通り魔事件、自分の過去を知っていて脅すような怪文書が届くようになる。
身の危険を感じた想一は、名探偵として名を馳せている友人の島田潔に助けを求める。
おススメポイント
綾辻行人の館シリーズが大好きのなのだが、「犯人が一番意外だった」のはこれ。
館シリーズの中でも異色作で、ファンの間でも賛否両論分かれている。
ミステリーというよりはサイコホラー色が強いので、王道を求めている人はがっかりしたのかもしれない。
自分は物語全編に流れる、不穏で不安定な空気感がとても好きだ。
読んでいる間中、不安でそこはかなとない恐怖がつきまとい、はやく結末を知って落ち着きたくて読み進めてしまう。
館シリーズの中で最高傑作は「時計館」で間違いないと思うのだが、個人的には人形館も捨てがたい。
関連記事
「殺戮にいたる病」(我孫子武丸)
あらすじ
「永遠の愛を得たい」
そう考えて、蒲生稔は猟奇殺人を繰り返す。
余りに頻繁に繰り返される異常な殺人に、とうとう蒲生稔の家族は「彼が殺人犯なのではないか?」という疑念を抱くようになる。
おススメポイント
それまでユーモアミステリーをメインで書いていた我孫子武丸が書いた、猟奇殺人がテーマの本。
殺害描写の生々しさや犯人の異常心理に焦点が当てられており、サイコものかと思いきや…という結末が楽しい一冊。
我孫子武丸の本の中では一番好き。
「折れた竜骨」(米澤穂信)
あらすじ
ソロン諸島の領主の娘、アミーナは、ある日、父の下にやってきた奇妙な客人に出会う。
放浪の騎士ファルクとその従士ニコラは、アミーナの父に「恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士が、あなたの命を狙っている」と告げた。
自然の要塞に守られ、十分に警戒していたはずの父が、何者かによって殺される。
暗殺騎士の魔術に操られ「走狗(ミニオン)」となった者に殺されたのだ。
八人の容疑者の中で誰が「走狗(ミニオン)」なのか?
ファルクと暗殺騎士との戦いが始まる。
おススメポイント
十二世紀末の魔術が存在する世界観を舞台にしたミステリー。
歴史ミステリーは多く存在するけれど、ファンタジーとミステリーがこれほどうまく融合している例はないと思う。
世界観の設定のうまさ、そこで繰り広げられる物語の面白さ、そして最後の犯人の意外さ、そのすべてが味わえる贅沢な一品。
歴史好きにも、ファンタジー好きにも、ミステリー好きにも自信をもって進められる稀有な作品。
こういうジャンルの作品が、もっと数多く出て欲しい。
漫画になっていてびっくりしたΣ(゚Д゚)
「カーテン」(アガサ・クリスティー)
あらすじ
ヘイスティングズ大尉は、スタイルズ荘で穏やかな老後を過ごしているポアロの下を訪れる。
やってきたヘイスティングズに、ポアロは驚くべき告白をする。
「ここにはXという殺人鬼がいる。そいつは獲物を物色し、隙あらば殺人を起こそうとしている。自分がここにいるのは、Xを見張り、犯罪を防ぐためだ。その仕事を手伝って欲しい」
ヘイスティングズがいくら尋ねても、ポアロは殺人犯Xの正体を教えない。
「すべてはポアロの妄想ではないか」
そんな疑問も抱きつつ、ヘイスティングズは調査を開始する。
おススメポイント
名探偵エルキュール・ポアロ最後の事件。
カーとは逆に、どちらかというと平均値に近い作品を生み出すのが得意で、どんな作品でもそれなりに楽しませてくれるクリスティーだが、これは本当に驚愕の作品。
最後にすべての謎が明かされるのだが、今まで自分が読んできた事実の全てがひっくり返される。
「ええっ?? あれはそういうことだったの?? これはこういうことだったの??」
ずっと、そう言い続けるハメになる。
クリスティーは「こう見えていた事実が、実はこうだった」ということを見せるのが非常に上手い作家だが、その仕掛けの渾身の作品であり、まさに名探偵の最後を飾るにふさわしい作品。
ポアロものを今まで書いてきて、これを思いついた時点でもう傑作確定だろうと思う。ただ「結末の意外性」をのぞいても、物語として十分面白い。
何度読んでも幕引きの鮮やかさが心地いい。
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終わりに
読んだことがある人は気づいたと思いますが、実はこの作品群は、あるパターンのものが多いです。
ミステリーを読んでいると、だいたいありとあらゆるパターンのトリックを見つくしてしまい、「これはこのトリックの亜流だな」と思うことも多くなります。
様々なトリックの作品を読んでいる読者でも、なお驚ける作品というのは「物語の巧みさ」の力が大きいのだと思いました。
「気を付けていたつもりなのに、いつの間にかこちらに気をそらされていた」
「余りに記述が巧妙で、そういう解釈ができるとは気づかなかった」
ミステリーの面白さというのは、トリックの奇抜さ、犯人の意外性というのももちろんあります。
ただそれ以上に「物語の上手さ」というのが非常に大切なのではないか、改めてそう思いました。