小林泰三「肉食屋敷」を読了した。
本書は短編集なのだが、四つの短編が収められている。どれも若干グロくて暗い世界観という共通項はあるものの、ジャンルや読み味が微妙に違うので、まったく飽きずに読める。
あらすじ&ネタバレなし感想
肉食屋敷
地方の役場に勤める私は、村の外れにある私設研究所に、外に放置されている廃液を処分するように話しにいく。
訪れた研究所はどことなく不気味な様子であり、インターホンに出た研究所の主である小戸は応答するものの、何故か外に出てこようとしない。
小戸の言葉を受けて、私は研究所の中に足を踏み入れる。
(感想)
設定自体は他の作品を思い出すが、細部まで緻密でとても面白い。お約束的なオチまで含めて、短編小説のお手本のような作品だと思った。文章だけだと想像しづらい部分があったので、映像化したものを見てみたい。
ジャンク
人間の肉体が高額で売り買いされる世界で、人間を殺し、その死体を売り飛ばすハンターを狩るハンターキラーである私。
ハンター二人を殺した直後、彼らの仲間につけ狙われる。
(感想)
話自体はありがちなのだが、世界観が非常に独特で良くできている。これ一話で終わってしまうのは余りにもったいない。この世界観で長編を読んでみたい。
妻への三通の告白
余命いくばくもない私は、妻である綾に手紙を書くうちに過去のことを思い出す。
(感想)
これが読みたくて購入したのだが、四作の中では一番平凡だった。割と早い段階でオチの予想がつく。導入や語り口が上手いので、もうひとひねり欲しかったと思ってしまう。
獣の記憶
多重人格である僕は、もうひとつの人格である「敵対者」からの嫌がらせに悩まされている。「敵対者」とノートで言葉を交わし、カウンセリングに通いながら、何とか日常生活を送ろうと試みるが…。
(感想)
結末については「そんなことが可能なのかな?」とは思うものの、物語の展開の仕方が上手いのでさほど気にならない。
最初から最後まで緊迫感があって、一気に読んでしまった。
以下ネタバレあり感想を語ります。
ネタバレあり感想
肉食屋敷
ラブクラフトの「イスの偉大なる種族」と「宇宙からの色」を合わせたような話だと思った。こういう「未知のものに軽い気持ちで手を出したら、自分の想像を遥かに超えるものだった」という話が好きな人には、たまらない話だと思う。
内骨格がないから屋敷を内骨格にしたとか、小戸のゲノムを取り込んでいるから怪物から無数の小戸の姿がイボのように突き出ているとか、発想がぶっ飛んでいるが、きちんとそれがどういう理屈なのか説明されている点もいい。
怪物の姿がイマイチ想像しづらかったので、孵化した時点から時系列で映像を見てみたい。
徹頭徹尾グロさと気持ち悪さから話が成り立っているので、そういうのが好きな人には特におススメだが、非常に完成度が高い優れた短編だと思うので、「ちょっとしたグロでもグロ描写はどうしても駄目」という人以外はぜひ読んで欲しい。
「グロや怪奇ものは苦手」で読まないのはちょっともったいないなあと思ってしまう。
ジャンク
物語のあらすじ自体はありがちだなと思うけれど、それを取り囲む世界観が独特なので非常に斬新な話に思える。
人造馬の描写とか、ジャンク屋と死体を取引する会話とか「こんなグロイことやっているぜ」という感じではなく、それが当たり前のような淡々とした感じも良かった。
自分も娼婦と同じように、素敵なカップルだと思った。
妻への三通の告白
最初の段階でたぶんこういうオチだろうなと思い、もうひとひねりあるのかな、と思ったけれど、何もなくて残念だった。妻が生きていて同居しているのに手紙を書いている時点で、何となく察しがつく。
犯罪系かな、と思ったら、マネキンというむしろライトなオチだった。
「認知の歪み系」の話は昨今よくあるので、ひねっていないとちょっとキツイ。
獣の記憶
この短編集を読んで、「物語の構成や演出の仕方がすごく上手いな」と思ったが、その中でも一番上手いと思ったのがこれ。
話自体はありがちだし、オチもまあまあ想像がつくのだが、「たぶんこうだろうな」と思っていても物語に引き込まれてしまう。
よくよく考えると逆カウンセリングで、自分のことを見えないようにするなんてことができるのかなと思うし、そんなに都合よくいくかなとか色々な疑問が思い浮かぶけれど、物語の上手さのようなものが全てを上回る。
「くそー、うまいなあ」と言いたくなるような短編。
自分の好みの雰囲気の作品ばかりであり、物語の上手さもあり非常に面白く読めた。こういう世界観の作品をどんどん書いて欲しいなと思う。
これを機会に小林泰三の作品を、色々と読んでいこうと思う。