うさるの厨二病な読書日記

生涯中二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好きも嫌いも全力で語るブログ。

【銀河英雄伝説キャラ語り】大人になって分かったアンネローゼのすごさ

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長い間「アンネローゼは、つまらないキャラだな」と思っていた。

15歳のときに権力者の後宮に入らざるえなかったことには同情するけれど、その後はずっと「何とかパイ」とか「ケルシーのケーキ」を焼いて、黙って微笑んでいるだけ。

いつの時代も、こういう美人で大人しくて物分かりのいい料理上手な女性が良い、というアイコンのように思えて、ペッと唾を吐くような思いだった。

性格は捻じ曲がっていても、ベーネミュンデ夫人のほうがよっぽど面白い女性だと思っていた。

 

田中芳樹の作品においてこういう「三歩下がってついてくる、ひと昔前の理想の女性」のようなキャラは、意外と少ない……というよりほぼ皆無に近い。

恐らく作者の好みなのだろうけれど、男性と並んで戦ったり、対等に渡り合う女性キャラのほうが圧倒的に多い。

「アルスラーン」のエステル、アルフリード、ファランギース、「タイタニア」のセラ、リディア、ミランダ、「マヴァール」のアンジェリナ、エセルベート、アデルハイド、「創竜伝」の茉理、「アップフェルラント」のフリーダ、アリアーナ、「灼熱の竜騎兵」のデュカ、イヴリンとむしろ大人しく非活動的な女性キャラを探すほうが大変なくらいだ。

そう考えるとアンネローゼは本当に、「フワフワと優しく料理するだけの美人なお姉さん」なのか? という疑問が生じてくる。

 

キルヒアイスが死んだときに、オーベルシュタインがラインハルトに向かって「姉君が怖いのですか?」と聞くシーンがある。

「キルヒアイスは自分のせいで死んだ、という罪悪感を持って、アンネローゼと向き合うのが怖い」という意味ももちろんあると思う。

だがそもそもラインハルトは、アンネローゼを畏怖しているのではないか、とも思える。

「アンネローゼの警護をしていいか」という許可を、ヒルダに聞きに行ってもらうところにもそれが表れている。

ラインハルトはアンネローゼを深く愛しているが、同時にどこか遠慮がある。他の人間に対してのようにはっきり物を言うことはできないし、キルヒアイスに対するように無条件に甘えることもできない。

 

なぜラインハルトはこんなにもアンネローゼに遠慮をするのだろう? 

実はアンネローゼはラインハルトに対して誰よりも厳しく、しかも強い意思を持つ人だからだと思いいたる。

ヒルダを通してのラインハルトの警護の申し出も「私にはその必要も資格もありません」と言ってはっきり断っている。

またキルヒアイスを失って失意の底にいるラインハルトから「私にはまだ姉上がいる」と言われても、きっぱりと離れている。

アンネローゼは一見優しく穏やかに見えるが、自分の意思を常に貫こうとする。それが優しさであれ甘えであれ、自分にとって不本意なもの、必要とは思えないものは受け入れない。

それでいながら「皇帝の要望」「キルヒアイスの死」のように、自分の力ではどうにもならない運命のようなものは、泣き言を言わずに黙って受け入れる。

その態度が余りにも物柔らかなので気づきづらいが、その底には、甘えや情に流れやすいラインハルトよりももっと固い、何者にも動かされない鉄のような意思がある。

ラインハルトはそういうアンネローゼのことを誰よりも理解している。だからアンネローゼに物申すときは、常に「恐る恐る」になるのだと思う。

 

またアンネローゼは柊館の襲撃では、普段のおっとりした姿からは想像もつかない立ち回りを見せる。ヒルダを庇って襲撃犯の前に立ちふさがり、相手を一喝して花瓶を投げつける。

これこそがアンネローゼの真の姿なのではないか。

 

アンネローゼの最も驚嘆すべき点は、銀河帝国の皇帝となった弟に強い影響力を持ちながら、これを一度も使わなかったことだ。

アンネローゼはラインハルトのやることに、一切口を出さない。

ラインハルトがいないときに、キルヒアイスに「弟を叱ってやってね」と言ったことを見ても、ラインハルトがやっていることが余りに性急で危ういこと、というのは分かっていたと思う。

しかしラインハルト本人には、「気をつけたほうがいい」ということは言わない。

またラインハルトが権力を握ったあとは、むしろ彼から遠ざかろうとしている。

 

人が自分の持っている影響力や干渉できる力を発揮せずにいることは難しい。つい余計なお世話をしてしまったり、助言をしたくなったり、「相手のために」ということを 言い訳にして、あれこれ干渉してしまう。

アガサ・クリスティが言う「憎む相手は努力すれば放っておくことはできても、愛する人間を放っておくことは不可能だ」と言う言葉は、まさに至言だ。

 

アンネローゼがラインハルトに干渉したのは、ラインハルトが結婚したあとに「ヒルダを名前で呼ぶようにしてはどうか」と勧めたことだけだ。これもヒルダが、アンネローゼが勧めたのではないかと推測しているにすぎない。(勧めたのがオーベルシュタインだったら面白い。)

 

大人になると「自分が考えていることが恐らく正しく、しかもその影響を及ぼせる相手に対して干渉しないこと」がいかに難しいかがよくわかる。そして自分の言ったことをやらなかった相手に対して、「だから言わんこっちゃない」と言わないことも難しい。

「自分の言ったことが、相手のためになるはず」ということを信じたいし、自分の言動の価値を実感したいのだ。

 

アンネローゼは「何もしなかったからつまらない」のではない。「何もしなかったからすごい」んだ。

 

ということを今さらながら気づいた。

一見、性格は正反対に見えるラインハルトとアンネローゼだが、やはり二人には同じ血が流れている。キルヒアイスは、アンネローゼの優しさだけではなく、こういう鋼鉄の意思にも心惹かれたのかなと思うのだ。

 

余談:もしキルヒアイスが生きていたら、アンネローゼと結婚しただろうか?

キルヒアイスが遠慮しすぎてなかなか進展しないような気がするが、最終的には流れで結婚したんではないかと思う。

新婚初日から毎日、ラインハルトが家にいそうだけれど。