東元俊哉「テセウスの船」の情報の整理及び考察です。
現在、既刊の5卷までの情報に基づいた考察です。本誌の内容や他のかたの考察及び感想は読んでいません。
3卷までの情報での考察はコチラ↓
8巻までの感想はコチラ↓
5卷までの情報を整理した
「心がタイムスリップする前の状態」が①、「心がタイムスリップした後の状態」を②としている。①と②で変化していない箇所を赤字にしている。
1989年①のまとめ(心がタイムスリップしていない状態)
1月7日(土) 鈴が雪の中に転落。14時ごろ、新聞配達員・翼が発見。一命はとりとめるものの、顔に凍傷が残る。
1月7日(土) 三島千夏が除草剤パラコートを誤飲する。夜、姉の明音が発見するものの死亡。
2月5日(日) 田中義男が心臓発作で死亡。発見者は近所に住む小学生(名前読めず)
2月12日(日) 佐々木紀子が飼っている犬が死ぬ。死因は不明。
3月11日(土) 木村さつきが足を骨折。全治三週間。
3月12日(日) 三島明音がクラブを終えて、夕方に一人で下校。その後、行方不明。10日後に捜査が打ち切られる。家まで送らなかったさつきが非難を浴びることに。
4月6日(木) 佐々木紀子が自殺。死因は青酸カリ中毒。佐野は明音の事件の参考人として、紀子を事情聴取していた。
6月24日(土) 夕食前の乾杯をしたオレンジジュースに青酸カリが混入。参加者39名のうち児童16名、職員5名が死亡。
死亡者は以下の通り。
①菊池美和子 ②工藤小百合 ③山口由紀子 ④佐田悦子 ⑤冴島真理 ⑥斉藤愛 ⑦古川かなめ ⑧吉田朋美 ⑨星野ゆい ⑩永山涼 ⑪岡田健介 ⑫須藤直人 ⑬児玉義弘 ⑭西脇勤 ⑮藤崎正也 ⑯佐藤陽 ⑰浅井春二(職員) ⑱木村さつき 他不明
*裁判では、「事件当日、青酸カリを混入する機会があったのは佐野だけ」と認定。
(引用元:「テセウスの船」3卷 東元俊哉 講談社)
1989年②のまとめ(心がタイムスリップした状態)
1月7日(土) 雪の中に埋まった鈴を心が発見。→凍傷なし。
1月7日(土) 16時30分ごろ 心が三島家の倉庫からパラコートを持ち出す。パラコートを捨てたあとに、佐野と千夏が並んで歩いているのを目撃。佐野はその後、病院に千夏をおいて、倉庫での盗難を捜査。15分後、千夏が死亡。
1月10日(火) 千夏の通夜。死因はパラコート中毒。テープの声「水で薄めたパラコートを、ラムネとだまして飲ませた」
1月16日(月) 始業式。藤崎正也が転入。
1月17日(火) ウサギがスコップで殺される。夏休み中にも四羽殺されている。
1月17日(火) 翼と子供たちが田中の家へ。ウサギのことを、田中に話しかける人物。
帰り道に明音と鈴が喧嘩をし、キーホルダーのことで揉める。
1月18日(水) 心と佐野が田中の家を訪問。長男の正志に会う。
1月24日(火) テープの声「田中のお爺ちゃんの家に行って遊ぼうと思ったが、邪魔者がいた」
1月28日(土) テープの声「また、邪魔者がいた」
2月5日(日)18時すぎ 「鈴が帰ってこない」と和子から田中家に電話。心と佐野が出たあと、さつきが田中家を訪問。すぐに出て行く。
明音は音臼岳の小屋に閉じ込められている。鈴と明音はお昼頃に出かけた。翼が小屋にいる明音に乱暴。
2月6日(月)未明 鈴発見。「(青空)公園で少し立ち話をしたあと、すぐに別れた」「自分は吹雪を避けるために、バス停にいた」顔の傷については話さず。
翼、紀子に「もし三日後に運よく明音ちゃんが見つかっても、もう手遅れだ」と語る。
2月7日(火) 木村工場から青酸カリが一本なくなっているのを発見。女子児童の手袋が発見されたが、明音のものではない。
心、佐野が音臼岳の小屋へ。足跡(翼と明音のもののみ)吐いた跡、鈴のキーホルダーを発見。指紋はなし。
音臼神社で明音と翼が死亡しているのが発見される。
明音の死亡推定時刻は6日深夜0時~1時。小屋で死んだ可能性が高い。テープの声によると、テープの声の主は現場にいた。
翼の死亡推定時刻は7日深夜2時~3時。
心がノートと免許証を湖に捨てる。
2月8日(水) 心、釈放される。
2月10日(金) テープの声の主が、心のノートと免許証を発見。
2月末 金丸が捜査のために音臼岳へ。崖から転落し死亡。
「翼が明音を殺し自殺した」ということで、公には事件は決着する。しかし、鈴に疑いの目が向けられる。
6月24日(土) 佐野はお泊り会の警備に参加。鈴と慎吾は参加せず。
6月25日(日) 朝飲んだ牛乳に、青酸カリが混入。39名のうち死亡者21名、負傷者18名。死亡者が①から変化しており、①で死んで②で助かった人間は以下のとおり。
③山口由紀子 ⑥斉藤愛 ③吉田朋美 ⑪岡田健介 ⑮藤崎正也 ⑯佐藤陽 ⑱木村さつき
佐野の家から、木村工場からなくなった青酸カリが発見される。
2017年①(心がタイムスリップする前)
母親は生きている。
鈴と慎吾とは10年以上会っていない。
由紀と結婚。由紀は未来を出産時に死亡。
2017年②(心がタイムスリップした後)
母親が一家心中をはかり、慎吾と共に死亡。鈴と心はしらぎくの杜へ。
鈴は中学卒業と同時に「しらぎく」の杜を出て行った。整形し、村田藍と名前を変えている。現在、車椅子の男性と結婚を前提に同棲しており、妊娠中。
心の下に、2015年8月1日から絵が同封された、匿名の手紙が届くようになる。
由紀は週刊誌の記者として、佐野と心に取材を申し込んでいる。
佐々木紀子が、「佐野の無実を証明する手助けがしたい。証言をする用意がある」と申し出ている。
5卷までの情報で考察
1989年②で一番問題になるのは、「2月5日に何が起こったか」だと思う。
2月5日・6日の時系列を細かく見ていく。
1989年② 2月5日(日)~6日(月)の時系列
(2月5日)
お昼ごろ 鈴と明音が一緒に出掛ける。
14時ごろ 鈴と明音が青空公園で話して、すぐに別れる。これ以降、鈴はずっとバス停にいたと証言。
18時10分 田中宅に、心、佐野、正志、医師、田中がいる。
18時15分 田中宅に和子から電話。鈴が帰ってこないという連絡。
18時15分? 明音が小屋の中で助けを求めている。
19時25分 田中宅に三島夫妻が訪ねてきて、明音の行方を聞く。
不明 さつきが田中の家へ行くが、明音が行方不明と聞いてすぐに出て行く。
20時00分 佐野、心、三島夫妻で鈴と明音を捜索。和子と慎吾が合流。
20時00分? 小屋にいる明音の下に翼がくる。→その後に誰かがくる。
(2月6日)
0時00分~1時00分 明音の死亡推定時刻
(引用元:「テセウスの船」4卷 東元俊哉 講談社)
0時00分すぎ 駐在所に佐野、三島夫妻、心、和子、慎吾が集まっている。佐野が村の人間を招集。
不明 心が翼と会う。佐野が鈴を発見。さつきが心に鈴の発見を伝える
0時40分 駐在所で佐野夫妻、三島夫妻、心、さつきが鈴の話を聞く。
0時45分 心が田中の家へ様子を見に行く。正志が応対する。
0時45分? 長谷川が帰宅。紀子が出迎える。
2時00分 心が田中宅から戻ってくる。佐野に三島から電話。
(2月7日)
2時00分~3時00分 翼の死亡推定時刻
カセットテープの声の主は、「明音を殺した」と明確にいい、彼女が死ぬ過程も詳細に語っている。これが妄想でないとするならば、声の主=犯人は「明音が死んでいく様を目の前で見ている」。
2月5日の経緯については、殺人犯が誰なのか以外にもいくつか疑問がある。
①明音はなぜ、ランドセルを背負っていたのか。
②鈴の顔に傷がついた経緯は?
③鈴のキーホルダーを置いたのは誰なのか?
④鈴が家に帰らずバス停に避難したような吹雪の中、明音はどうやって小屋まで行ったのか。小屋に行くまでのあいだ、何をしていたのか。
④は恐らく、ライラック荘で翼と会っていたのではないかと思う。鈴が家に帰れないのに、明音が一人でそんなに遠くへ行けるとは思えない。
とすると、①は「勉強を教えてあげる」などの理由でライラック荘に招かれたために、ランドセルを背負っていたのではないか。
③を考える前に、2月5日の時点で鈴はキーホルダーを持っていたのかを考える。キーホルダーはどの時点で、鈴から、小屋に置いた人物の手に渡ったのか。
金丸の勘を信じるならば、このキーホルダーを置いた人物は「わざと」これを置いたことになる。
キーホルダーのことで明音と揉めたのが、1月17日(火)。2月5日(日)まで三週間近くあるので、その間に盗まれたとか落とした可能性はある。
これは二つパターンを考えた。
①鈴がキーホルダーを盗まれた
②明音に返した
①の場合は、キーホルダーを盗んだのは小屋に置いたのと同一犯である。鈴を陥れようとする意図だと考えられる。
②の場合は、2月5日(日)の時点で鈴のキーホルダーは、明音が持っていた。
公園で仲直りをしようと思って、鈴はもう一度キーホルダーをくれとお願いしたいのではないか。明音がそれを拒否し、1月17日(火)に鈴が明音にやったように、突き飛ばすなりなんなりして傷を負ったのではないか。
明音と鈴は仲たがいをしたまま、その場で別れる。明音はライラック荘に翼に会いにいく。
②の場合は、キーホルダーを置いたのは明音ではないかと考えた。
明音を殺害したのは佐々木紀子であり、「怒っているお稲荷様」も紀子ではないか。紀子は1989年①でも明音の行方不明事件で、事情聴取を受けている。
翼は紀子をかばうために明音の遺体を運び出し、自殺した。と考えると、明音殺害については割とスッキリするが、千夏の事件や6月の大量殺人とのつながりが分からない。
1989年①と②の6月の事件では犯人が違うと仮定して、②のほうはさつき犯人説も考えた。
さつき犯人説だと明音はランドセルを背負って学校に行きクラブ活動をして、小屋に閉じ込められる。さつきが犯人と伝えたくて、鈴のキーホルダーを置いた。
2月6日(月)0時ちょうどくらいに明音を殺害し、30分くらいで村に戻り、捜索に加わり、心に鈴が見つかったことを伝えに行く。
音臼岳の小屋と駐在所の距離感が分からないので、もしかしたら「0時ちょうどに明音に毒を飲ませて、0時35分ごろに心の前に現れる」などもできるのかもしれない。
しかし、佐野と心が小屋に向かったときの様子を見ると、かなり距離がある場所のように思う。仮に車を運転できる大人であったとしても、明音を殺害して真夜中の吹雪の中、30分ほどで他の人間の前に現れられるとは思えない。
テープの声の主が明音が死んでいく様子をじっくり観察していることを考えると、時間的にかなり無理がある気がする。
またさつきは、1989年①では6月の事件で死亡しているし、①の明音の行方不明事件では非難も受けている。
テープの主は心が来る前からテープをとっているので、テープの声の主自体は①と②で同一人物である。
(引用元:「テセウスの船」1卷 東元俊哉 講談社)
確認できる一番古いテープは、1988年5月のもの。
テープの内容が虚偽でない限り、テープの声の主が①②の一連の事件をすべて起こしている。
明音の死亡推定時刻に間違いがないという前提で考えると、6日(月)0時~1時の捜索のシーンに出てくる人間は全員、明音を殺害できないと考えてよいと思う。
佐野夫妻、三島夫妻、田中、正志、さつき、翼、心、鈴は明音を殺していない。
「紀子が長谷川を出迎えたシーン」は0時45分とは限らない。0時45分から2時までならば、何時とでもとれるので、紀子は犯人の可能性がある。
ただ紀子は①では4月6日に自殺している。①の6月の大量殺人の犯人ではない。
前述した通り、①と②でテープの主が同じ、テープの主が①と②の全ての事件を起こしていると考えると、紀子も犯人ではない。
そう考えると、やはり前回考えた加藤みきお犯人説が有力な気がする。
消去法になってしまうが、主要登場人物で明音が殺害されたときにアリバイがないのは、紀子以外ではみきお、校長くらいだ。小屋まで子供一人で行けるのかとも思うが、スキーの授業があったので滑れるのではないかとも思う。
4巻で金丸がキーホルダーを手に取った時「思ったこと」が分からない。
1989年②で金丸が死んだのは、このとき思いついたことの口封じだとは思うのだけれども。
指紋がついていないのはおかしいと感じたのかな。
1989年②の事件について、佐野にもっと聞いて欲しいのだが、これから聞くのだろうか。
新しい登場人物やら佐々木紀子の証言やらを聞いたら、また考えようと思う。
個人的には「テセウスの船」というタイトル通り、③、④くらいまではタイムスリップして元の事件の形を変形させることを期待している。
最後は大量殺人事件当日にタイムスリップして、犯行直前に犯人を捕まえるのかな?