*ネタバレあります。
「僕と君の大切な話」が全七巻で完結した。
だらだら続くよりは、東くんと相沢さんがめでたくカップルになったところで終わってよかったかもしれない。
と思いつつ、この話が滅茶苦茶好きだったので寂しい。「続」とかやんないかな。
この話で一番好きだったところは、「自分と相手は違う」という前提が常にあるところだ。
最初のころは、「なぜこんなに言われつくされた、『男と女の違い』を話し続けるのだろう」と不思議だった。(この話はそんな言われつくした陳腐な話を、面白おかしく見せているが。)
「男はこうだ」
「女はこうだ」
「なぜ、そんなこともわからない?」
「なんでそんなひどいことを言うの?」
「なんで女は論理的じゃないことばかり言うんだ?」
「なんで男は気持ちをわかってくれないの?」
おいおいその話、何周めだ、主語デカい。と総突っ込みをくらいそうな話だ。
お互いに攻撃し合い、お互いに突っ込みを入れ合い、お互いに都合の悪いところは話をスルーし、お互いに自分の聞きたいところだけを聞き、「同じ星の人間とは思えない」と思いながら、二人は話し続ける。
「わかる」から、ではなく、わからないから話をする。
たとえば僕と君が違う星の人間だとして、それをつなぐのは言葉だろう。
だったらこちらから閉ざしてしまうのはあまりにもったいない。
相沢さんとの会話は、あまりに自分と違ってなんだか面白い。
東くんはこの前男と女は違う星って言っていたけど、たしかにその通りだわ。
何だかとても遠い星の人。
(引用元:「僕と君の大切な話」1巻 ろびこ 講談社)
よく知りもしない女子からいきなり話しかけられた東くんは、それでも面白い人だと思い、ぶつかり合いながらも相沢さんとの会話を続ける。
しかし東くんに片思いしている相沢さんは、東くんの言動に一喜一憂してしまい、「面白いから話したい」という東くんの言葉をネガティブに受け取ってしまう。
自分の物の見方、属性、気持ちの温度差、その時の気分、本当に人間はありとあらゆることが他人と違い、すれ違うようにできている。
最初は「女はこうだ」「男はこうだ」と言っていた二人は、徐々に相手のことを知っていく。何が好きで何が嫌いか、どういう環境でどういう風に育ったのか、何を考えてどう生きているのか。
東くんは相沢さんに徐々に惹かれていき、相沢さんは東くんを知れば知るほど好きになる。
小説家志望だが、今まで一作も完結させられていなかった東くんは、相沢さんを好きになり、小説を一作仕上げようと決意する。
どうして女は恋愛が好きなのかな。
古今東西少女漫画は恋愛ものだ。
なぜ誰が誰を好きかで、一喜一憂できるんだ。
まるで世界を揺るがす大事件みたいに。
それを言うなら、男の子の漫画は、いつだって強さ比べだわ。
誰が誰に勝ったから、なんだっていうの。
この現代社会で、強さを比べてなんになるの。
どうしてそんなにトーナメントが好きなの。
(引用元:「僕と君の大切な話」7巻 ろびこ 講談社)
そんな各所から膨大な数の意見が押し寄せてきそうな話ばかりをしていた東くんと相沢さんだが、東くんが相沢さんに読んでもらいたいと思った小説は恋愛小説だった。
相沢さんといろんな話をしたおかげでできた小説だから、一番に君に見せたかった。
(引用元:「僕と君の大切な話」7巻 ろびこ 講談社)
「女は恋愛が好きだから」恋愛小説を書いたのではない。
相沢さんと出会って、相沢さんと話したことで書いてみたいと思った小説が恋愛小説だった。だから「君に」見せたかった。
でも何より私は、お話の中で東くんが見ている世界が垣間見える気がして、そこがよかった。
『僕たちは理解り合えない』
『だから君と話したい』って…。
本当に、東くんらしいお話。
(引用元:「僕と君の大切な話」7巻 ろびこ 講談社)
「男が見ている世界」ではなく、「あなたが見ている世界」が見えてよかった。
それは「男らしい」話ではなく、「あなたらしい」話なのだ。
「僕と君の大切な話」は、主語デカくしか見えなかった「自分とは違うよくわからない他人」が、「たった一人の君」になる話だった。
「違う人間だから分かり合えないかもしれないけれど、だからこそ話したい」と思う気持ちが、「よくわからない他者」を「たった一人のその人」にする。
そんな風に向き合いたいと思う相手に一人でも出会えたら幸せだ、ということを実感させてくれる話だった。