うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【ゴールデンカムイキャラ語り】狂気の父性愛・鶴見篤四郎の悪役としての魅力について。

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*ネタバレ注意。

 

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上記の記事に書いた通り、自分は「ゴールデンカムイ」の世界は鶴見が体現している「狂った父性愛」によって駆動している世界だと思っている。

 

①「人が人を殺す」(争う)のは、恐怖や憎悪ではない。政治思想でもない。「殺人」というハードルを飛び越えうる唯一の動機は「愛」。

②①に加え「『攻撃性が強く忠実で後悔や自責を感じねで人が殺せる』生まれながらにして兵士の者」=「犬」は「殺人への抵抗をより飛び越えやすい。

③「犬」の条件とは何か。→父性愛の欠落ないし喪失。

④だから鶴見は、「犬」たちに父性愛を与えることで支配する。

 

鶴見は「どうしたら兵士が殺人というものに抵抗をなくしてくれるか」を考えたとき、そのハードルを唯一超えうるものは「愛だ」と喝破する。

この時の鶴見は「だから愛情の欠落している人間にそれを与えて利用する」という陰惨さや狡猾さが一切ない。

その逆である。

(引用元:「ゴールデンカムイ」第227話 野田サトル 集英社) 

唯一無二の尊い真理を発見した高僧のようだ。

背後には後光が指している。

 

鶴見はこの「愛によってのみ、人は殺人へのハードルを飛び越えうる」という法則を利用しているのではない。

その真理を誰よりも熱烈に信じている信徒なのだ。

 

鶴見はなぜ、部下たちを愛しながら騙したり利用したりするのか?

愛しているのであれば、守ったり大切にしたりして、騙したり利用したりはしないのではないか?

普通であればそう思うが、「ゴールデンカムイ」の世界では違う。

 

「ゴールデンカムイ」の世界を支配する父性愛は、息子に「愛しているからこそ死ね」と命ずる。

他の親の子供に死ねと命じなければならない立場にあるがために、まず真っ先に自分が愛する息子を犠牲として捧げる。

愛しているからこそ利用し、危険にさらし、死地に追いやる。

「死ね」と言うことを始め、ネガティブに扱うことが愛情の証なのだ。

 

鶴見と犬たちの中の父性愛が欠落している部分に、潜り込み彼らを支配し、利用する。

しかし鶴見は、配下たちを支配し利用しながら、真剣に愛してもいる。

というより、愛しているからこそ支配し利用する。

さらに言うと、支配し利用することでますます彼らに愛情を持つ。

 

鶴見の中で「愛すること」と「利用すること」は不可分なのだ。

 

自分が鶴見というキャラが面白いな、と思う点はここである。

ただ騙して利用しているだけならば、この半分も面白いとは思わなかっただろう。(ただの悪役なので)

 

部下たちはそれがわかっているから、利用されても、というより「利用されていることこそが鶴見(父)からの愛だ」と思い付き従う。

 

例えば月島は鶴見の真の目的が「オリガとフィーナを殺した男・ウィルクへの個人的な復讐」だった場合、「それが本当の目的ならぶっ殺してやる」(第270話)と憤っている。

鶴見が「オリガのみの父親」であれば、月島に対しては愛情などなくただ利用したことになる。逆説的に言えば、鶴見が月島にとっても「父」であり、愛情によって利用したのであれば月島は利用されても満足なのだ。

鶴見が月島を9年もかけて騙したことは、フィーナに身分を偽っていた(工作員として利用していた)年月よりも長い。かけた時間が長くなればなるほど、「利用したこと」と「愛したこと」の境目は融解し、不可分になる。

 

彼の部下たちへの言動、最後の表情を見れば彼がどれだけ愛情深い人間かわかる。

(引用元:「ゴールデンカムイ」第313話 野田サトル 集英社)

鶴見の狂気や恐ろしさは、全て彼の常人では考えられないほど深い愛情からきている。

だから周りにいる人間たちは、鶴見に吸い寄せられ、心酔してしまうのだ。

 

「愛」は人を戦場に向かわせ、殺し合いをすることを厭わなくさせるほど、人を狂わせる。

というより、愛しているからこそ、狂わせ騙し利用し死地に追いやる。

そういう愛の狂気と恐ろしさを一身に背負ったキャラだった。

 

鶴見との関係で面白いのが尾形だ。

鯉登のケースを見ると、母親からの愛情は「父性愛の欠落」を埋めることはおろか、息子に何も影響を与えることが出来ない。

その中で尾形の母だけが、尾形に大きな影響を与えている。

(引用元:「ゴールデンカムイ」第304話 野田サトル 集英社)

 

「母(女性)からの愛情の欠落によって狂ったり、その愛を得ようと戦う」というのは比較的よくある話だが、尾形はその普通さゆえに「父性愛によって駆動しているゴールデンカムイ」の世界では異端児になってしまっている。

尾形は「母性愛を求める(欠落している)人間」(マザコン)だったからこそ鶴見の支配下には収まりきらなかったのだ。