*ネタバレ注意。
綾瀬はるか主演、行定勲監督の「リボルバー・リリー」を観てきた。
良かった点
①とにかく強くカッコよく美しい綾瀬はるかを撮りたいという目的が首尾一貫していた。
②格闘シーンは見ごたえがあった。
③出演者が豪華。
④ストーリーがスピーディで退屈せずに見られた。
この映画の一番良かったところは、「戦う綾瀬はるかをいかに美しく撮るか」のためだけにすべてが存在しているところだ。
俳優陣もスタッフもその目的のためだけに一致団結している。
綾瀬はるかが演じる百合はそのことに十分納得できるくらい強く美しかった。
泥まみれになっても血まみれになっても、転げ回っている姿さえ美しい。
これだけ豪華で芸達者な人をそろえたにも関わらず、綾瀬はるかにしか目がいかない。(細見が豊川悦司だとエンディングロールを見て気づいた)
一対一の格闘シーンは、どれも見ごたえがあった。特に最初の列車内での格闘シーンは見ていて楽しかった。
ストーリーは起承転結もしっかりしていて見せ場も驚きもあり、アクションシーンの連続なので退屈せずに見られた。
「四の五言わず、強く美しい女性が戦ってスカッとする映画が観たい」ならおススメだ。
気になった点
一対一の格闘戦はいいのだが、銃撃戦はリアリティがなく見ているのがキツかった。
建物に立てこもっての銃撃戦はまだしもと思うが(それでもあの状況で突撃しない……想定しないとは考えられないが)視界が開けた平地の銃撃戦で、子供を連れて一人であれだけの相手を殲滅するというのは荒唐無稽すぎる。
陸軍は無能を通りすぎてただの的だ。
津山は「シベリアでパルチザンと戦っていた」と言っていたので、現場指揮官として実績があり優秀という設定なのだろうが、とてもそうは見えない。
タイトル通りガンアクションがこの話の肝だと思うので、銃撃戦はもう少しリアリティと緊迫感が欲しかった。的に当てているだけでは、百合の凄さが伝わってこない。
海軍省庁の真ん前に陸軍が防衛線を敷くのも劇画的な見せ方だというのはわかるけれど、なまじストーリーは現実的でそれなりに説得力があるだけに、クライマックスシーンと全体のストーリーのリアルさがアンバランスだった。
百合と一緒に戦っていた那珂と琴子、岩見がまったく怪我をしていないのも気になった。特に那珂と琴子は百合の代わりに敵を引きつけていたのに、超人か?と思ってしまう。
琴子はあんなに強いなら、慎太がさらわれた時に一人でも取り返せたんじゃないか?
もうひとつ気になったのは、百合の戦うモチベーションが男(水野)にすべて依存しているところだ。
水野に「戦う時は身だしなみも大事」と言われたからドレス姿で戦い、妻?である自分に生きていたことを隠し、ずっと連絡もせず別の女性とのあいだにできた子供を託されても「ほんと勝手な人」で許し、最後は水野の子供と水野が好きだった菓子を食って終わる。
岩見は「水野は百合を戦いに巻き込みたくなかったからでは」と言っていたが、慎太(とその母親)は巻き込んでも良かったのか。
百合をこれ以上戦わせたくない……自分のやっていることに愛する人を巻き込みたくないから消息を絶ったなら、別の女性と結婚して子供は作らない。
百合もそれはわかっていて「ほんと勝手な人」のひと言ですべてを呑み込み、あまつさえその人の思い出の菓子を食って終わりということか。
百合は山本に、水野は津山に「何のために金が必要なのか」「どんな夢を見ているのか」と聞いている。
「どんなモチベーションで戦うのか」という意味だと思うが、百合こそどんなモチベーションで戦っているのか、と疑問だった。
水野が信じた夢を自分自身も信じている、というよりは、「水野が信じた夢だから」信じているという風にしか見えなかった。
自分とのあいだの子供を失った女性を見捨てて、他の女性とのあいだで家庭を築いてた男の夢のために恨み言ひとつ言わずに戦う。
随分従順で物分かりのいい女性だなと思ってしまう。
百合は、内実は水野という一人の男への愛情に存在意義を託しているため、どんなに理不尽なことをやられても「勝手な人」で許してしまう。
かなり旧弊な価値観の女性でこれに凄くガックリきた。
旧弊も何も大正時代の話だから、とそこを夢も希望もない現実でガチガチに固めなくてよくないか。「映画史上最強のダークヒロイン」という謡い文句が空しい。
水野に言われたから戦いの時も身だしなみを大事にしている、という時点で嫌な予感がしたのだが。
ストーリーが慎太との疑似母子関係に収斂されるのも残念だった。
存在意義や行動のモチベーションがすべて対男性への性愛や母性に回収されてしまう女性キャラは苦手だ。*1
ただ余り深く考えなければ、スピーディで楽しめる映画であることは間違いない。
何より綾瀬はるかが理屈抜きでカッコよく美しかったので、観に行って良かった。
原作も買った。
*1:この映画はアクション映画で、ダークヒロインと謡われている主人公の戦う理由が性愛や母性に回収されてしまうのは残念という意味。テーマ自体が恋愛や母性ならそれは別にいいのだけれど。