うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

病的なウソつきの話。

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病的な嘘つきがいる。

ある日、こんなことを言い出した。

「ボクのことを嘘つきだと思っているのだろうけれど、これから言うことは掛け値なしの真実だ。信じてくれるかい?」

うなずくと、病的な嘘つきは話し出した。

 

「ボクはこの前、人を殴った。そいつがとても理不尽なことをしたからだ。そうしたら、そいつは死んでしまった。そのあと、人を三人殴った。そのうち二人は死んで、一人は生き残った。生き残った一人は、近くの病院に運ばれた」

「だからボクは、生き残った一人を、もう一度、病院まで殺しに行った。そうしたら、そいつはもう死んでいたんだ」

「ボクは頭にきたよ。何で、ボクが行くまで生きていないんだってね。あんまり頭にきたから、病院の看護師二人と医者を一人と外に出て、ちょうど通りかかった人を三人殺してしまった。悪いことだとは分かっていたんだけれど、何しろ余りに頭にきたから」

「ところが、そのうちの一人が生き返ったんだ。ボクは混乱したよ。人が生き返るなんて。そんなのってない。正しくない。あってはならないことだ。だからもう一度、殺そうと思ったのだけれど、そいつは死なないんだ」

病的な嘘つきは、ため息をついた。

「ところで、結局、ボクは何人殺したんだろう?」

聞かれたので、考えてみた。

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少し考えた末、思う。

0人じゃないだろうか。

何しろ、相手は病的な嘘つきなのだ。

この話自体が嘘だろう、恐らく。

 

そう答えると、病的な嘘つきは、ひどく悲しそうな顔をした。

「ひどいね。ボクのことを病的な嘘つきだと思っているのは、君だけだよ。君にとっては、誰も彼も病的な嘘つきなんだろうね、きっと」

では、あなたは病的な嘘つきではないのか?

「もちろん」

病的な嘘つきは、深くうなずく。

「だって、ボクが君にウソをついたことが一度でもあるか?」

じゃあ、何人殺したんだ?

「九人」

病的な嘘つきは即答する。

いやいや、八人だろう。ちゃんと数えて……。

病的な嘘つきは、きっぱりと言う。

「九人だよ」

いやいや、だって最初に殴って死んだ人がいて、そのあと……。

「君はずいぶん、細かいことにこだわるんだな」

病的な嘘つきが、軽蔑したように言う。

「死んだのが八人だろうが九人だろうが、ボクは人を殺してしまったんだ。ボクは罪人なんだよ。許されるはずがない。そうだろう? たとえ一人でも二人でも、何百人でも人を殺した罪の深さに関係はない」

それはそうかもしれないけれど、いま問題なのは、殺したのは何人かという話で、九人じゃなくて八人……。

「ボクのことをきちんと見てくれれば分かる。ボクが罰せられるべき人間だって。一体、君は何を言っているんだ? 君にとって、人間は数字なのか?」

はあ……、すみません……。そういうわけではなく……。

「でも、最後の一人は生き返ったんだ。殺したと思ったのに。殺したボクも悪いけれど、生き返るなんてそれも正しくないよ。ボクは正しくないことが許せないんだ。生き返るなんて、自然の摂理を、生命を侮辱している。人は死ぬからこそ、人生を懸命に生きられるんだ。君もそう思うだろう?ボクは許せないんだ、そういうのは」

病的な嘘つきは、真剣な顔をしてそうきっぱりと言いきる。

「誰であろうと、人間の命の尊さを侮辱する奴は許せないんだ」

それは分かったけれど、ところで死んだのは八人ですよね?

病的な嘘つきは、非難するような口調で言う。

「九人だよ。人の命は軽く扱ったり、忘れ去っていいものじゃないんだ」

いや、おまえ……。

お前がそれを言うか……。

病的な嘘つきが、不思議そうに聞いてくる。

「ボクは何か間違ったことを言っているかな」

 

次の日、病的な嘘つきはこんな記事をアップする。

「昨日、病的なウソつきがボクと話をした、という記事を書きました。ボクが八人殺したとか、訳のわからないことを言います。例えウソでも、そういう命を軽く扱う言葉が許せません。世の中には似たような事件も起こっているのに、そんなウソをつくなんて……なんたらかんたら」

人を病的なウソつきよばわりしやがって。それはお前だろ。

しかもエア言及かよ。

頭にくる。

 

でも、それでも病的な嘘つきが話すたびに、耳を傾けてしまう。

実はこっそり購読までしている。

でもブクマはつけない。スターもつけない。意地でも。


読むだけだ。

この先もずっと。


上手なウソの作法―人間関係を温かくする

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嘘を生きる人 妄想を生きる人―個人神話の創造と病

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