その男は預言者と名乗った。
いま目の前に座って、ジッと僕の顔を見つめている。
「私は、この先のことがわかるんだ」
男は僕を見て首を振り、唐突にそう言った。
「ある意味、預言者だね」
「ある意味」とはどういうことだろう?
「何が見えるんですか?」
僕の質問に、預言者は答える。
「明後日の昼間に、君は強いショックを受ける」
「そのあと、君は一人で私に会いに来る」
僕は預言者に尋ねた。
「それはどのような種類のショックでしょうか?」
「青天の霹靂みたいなものだ」
「霹靂?」
「雷のことだよ」
「雷…」
僕の頭に、青い空を割るように走る強烈な光が浮かぶ。
頭の中に響いた音は、僕がいる世界を叩き壊すようなすさまじいものだった。
「明後日、雷が鳴るんですね」
僕の言葉に預言者はうなずく。
明後日、雷が鳴る。
世界が壊れる。
「ショックの余り、君は私を殺したいような気持ちになるかもね」
明後日、僕は預言者を殺したいような気持ちになる。
次の日は晴れで、その次の日も空は青かった。遠くのほうでゴロゴロと音が鳴っている。
霹靂だ。
僕の頭の中に光が走る。
僕は予言通り、男の下へ向かった。
「待っていたよ」
男は微笑んで、僕に自分の前に座るように促す。
「ショックだったかな」
男の言葉に、僕は呟く。
「雷…」
「雷?」
男は顔をあげて窓の外を見た。
「鳴っているね」
すぐに別のことを話し出す。
「わかっていると思うけど、このままの状態では君はとても…。…私は君のことが心配…」
僕は雷を見ながら考える。
雷が鳴っている。
僕の昨日までの世界は壊れた。
そして僕は目の前の男が殺したくなっている。
予言通りだ。
僕は拳を握りしめ、更なる予言が下されるのを待った。
僕は家に帰ってきた。
窓の外では、まだ雷が鳴っている。
空に一瞬閃光が走り、少し遅れてすさまじい音が鳴る。
僕はカバンから昨日用意したビニール紐と布に包まれた金槌を取り出した。
引き出しにしまおうとして、考え直してカバンにしまいなおす。
預言者とは明日も会う。
次の予言があるかもしれない。
「ある意味預言者の男」は、家に帰ってきた。
いつものように預言に耳を澄ます。
「明日、殺人者に出会う」
「預言者の男」は、今日話した男の顔を思い浮かべた。
あいつが殺人者?
預言者は首を振る。
預言は必ず当たる。当たるまでその預言は予言のままだからだ。
「預言と矛盾しない出来事さえ起これば、予言は的中したことになり、予言ではなくなる」
男は部屋の中を探し回り、古びたロープと鉄アレイを見つけ出す。
預言者は少し考えこむ。
「自分の内なる殺人者に出会った」という解釈でもセーフだろう。……たぶん。
預言者はロープと鉄アレイをカバンにしまい、あくびをして寝床につき電気を消す。
窓の外では、雷が光っている。