新たな発見があるかもしれないと思い、改めて「ムーンライトシンドローム」を見てみました。
とっても面白かったです。
むかし、ちんぷんかんぷんだったことが、「ああ、こういう意味だったのか」と分かるようになりました。大人になるって、素晴らしいですね。
ネットを検索すると、いろいろ考察やネタバレは出てくるのですが、自分独自の分析や考察を書きたいと思います。
「プロローグ」
ミカが自宅マンションの前で、アラマタに再会するところから、物語がスタートします。
ここでアラマタが言っていることは、かなり興味深いです。
ミカたちが住む雛代町は、自然の切り開いて作られた人工的な町です。
ミカの住むマンションはかなり近未来的な作りで通称ピラミッド御殿と言われていますが、ゲーム画面を見ると、山を切り崩して建てられていることが分かります。
自然の中に、「雛代町」という世界を作ってしまったのです。
そこに住んでいる人間たちは、それぞれがこの「雛代町」という世界を構成する成分です。
「雛代町」という世界を存続させるために、住民たちはこの町で起きた出来事は、それがどんなに不思議で奇妙なものであろうと、現実であり事実であると考えます。
「雛代町」の構成成分である住民のうち、誰かひとりでもその出来事が「奇妙だから、現実ではない」と考えてしまえば、「雛代町」という世界が崩壊するからです。
アラマタが「防衛本能で、認識の破壊から身を守る」といっていたのは、こういう意味だと思います。
太平洋戦争末期の日本人が
「神風がふいて、日本は必ず勝つ」
という共同幻想を信じることによって、戦争を戦い続けたように、
雛代町の町の住民たちは、
「この町で起こったことはすべて現実であり、おかしなことはない」
という共同幻想を信じることによって、自分たちの日常生活を守り続けているのです。
アラマタは雛代町の住民ではなく「よそ者」なので、雛代町という世界を変える力はありません。
雛代町という構成体が代わるには、構成成分が変化することによって、結果的に全体が変化していくしかないからです。
「雛代町」という町をメタファーとして、個人の現実の認識のしかたについて語っているのだと思います。
環境を認識する主体である、自我についての物語なのです。
「自分が見たくないものを見ないで、人から与えられた幻想を現実と思うことで、奇妙なことを深く考えないことで、自分のことを守っているだけじゃないの?
そうすることでしか、自分という現実を守れないの? でも、それって本当に現実なのかな?」
そういうことを言いたいのだと思います。
おっしゃりたいことは、よくわかります。
のっけから、絵に描いたような厨二です。
雛代町の大人たちは、何も考えないようにして、テンプレをなぞるようにして、日常を生きています。少しでも考えると、「日常」が崩壊の危機にさらされるからです。
その代表が、ミカの母親です。
この人は娘の言葉すらまともに聞かず、自我を「世間」に預けて、自分個人は何も考えないようにして生きています。
そして、それが大多数の「大人」と呼ばれる人たちの正体なのです。
しかし、厨二に近いミカたちの世代は、そういうわけにはいきません。
まだ自我そのものが、不安定だからです。
町で起こる奇妙な出来事についても、大人たちのように、
「現実に起こっているから、奇妙じゃない」
(現実であり事実であること自体が、おかしなことではない、という証明である。)
という幻想を共有しきれないのです。
そのために、ミカ、ミホ、ミキ、カズキが会話していたように、「この時期、みんな不安で敏感」になり、「町が変」だということを、感じ取ってミホのように急にキレたりするのです。
カヅキが、「自殺のイベントがあったから、クラブに行こう」とミカを誘います。
断ったミカに対して、「それが今どきの女子高生らしいこと」と言います。
それが本当に、「今どきの女子高生らしさ」なのかはおいておいて、大事なことは、「今どきの女子高生らしさ」という共同幻想を、カヅキが必死に共有しようとしていることです。
「雛代町という世界」の外にいるプレイヤーは、「不謹慎じゃない?」と断ったミカのほうがマトモなように思えます。
しかし、雛代町(=社会)の住民である、ミカやカヅキにはそれが分かりません。
ミカは「雛代町」に自我を預けずに、自分個人の倫理観に沿って、カヅキの誘いを断りますが、どこか自信がなさそうな断り方です。
このミカの態度が、自我を社会という大きなものに預けずに自分自身でコントロールすることがいかに難しいことか、そしてそれをしている人間が、いかに少なく、できたとしても、自分の正しさを信じきることができずに、孤立感を味あわなければならないかをよく表しています。
厨二でい続けるって、本当に大変ですよね。
みんなから、「厨二病乙www」って言われちゃうし。(´Д`)
次回は第二回「夢題」①です。