人にそれぞれ性格があるように、才能にもタイプがあります。
自分の才能はどのタイプかを考えることは、才能を伸ばす上で大きなヒントとなります。
今回は作家の作風や才能について、考えてみました。
ちなみに完全に、独断と偏見に基づいています。
職人型
読み手の存在を意識し、楽しませることを第一と考えるいわばプロ型。
小説とは読者の心の隙間をささやかな楽しさで、埋めるためのものと考えている。
物語に難しい思想などは組み込まず、エンターテイメントに徹した物語を書くことが得意。
多作な人が多いのもこのタイプ。
娯楽が多様化して、読書に大幅な時間と集中力を費やすことがなくなった現代で、一番需要があり、売れやすいタイプである。
アガサ・クリスティ
(代表作:「そして誰もいなくなった」「アクロイド殺し」)
「ミステリの女王」。職人型の鏡。
「飯を炊くように、ミステリが書けるのではないか」
とは、推理評論家の瀬戸川猛資の評。
多作にも拘わらず、内容の出来不出来がそれほど大きくない。常に安定している。
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綾辻行人
(代表作:「館」シリーズ、「Another」)
この人も、作品の出来不出来がそれほどない。
常に平均的なものを書けるということも、職人型の特質なのかもしれない。
「ミステリの登場人物は、記号でいい」は、名言。
他に職人型に分類される作家
赤川次郎、東野圭吾、宮部みゆき、チャールズ・ディケンズなど
特化型
職人型の亜流。一定の分野の小説のみを書き続ける人。
推理作家や歴史作家に多い。
読まない人はまるで読まないが、熱狂的なファンを獲得できる可能性を秘めている。
司馬遼太郎
(代表作:「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」)
歴史小説家。
影響力が大きく、司馬遼太郎が書いた小説の内容が歴史を考える上での一定の基準になるほど。
その内容を「司馬史観」として、批判されることもある。
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ジョン・ディクスン・カー
(代表作:「三つの棺」「ユダの窓」)
「密室の王様」。フェル博士の「密室講座」などで名高い。
サービス精神旺盛で、「密室」「怪奇趣味」「ユーモア」の三種の神器で読者を楽しませようとしてくれるが、駄作だとむしろイライラさせられる。
駄作と神作の差が恐ろしく激しいが、カーキチと呼ばれる熱狂的なマニアになるには、この駄作も愛さなければならない。
カーター・ディクスンという別名義も持つが、書いている内容はだいたい一緒。
他に特化型に分類される作家。
スティーヴン・キング、西村京太郎、ジェーン・オースティンなど
思想型
自分の中に伝えたい思想や世界観があって、それを作品に反映させるタイプ。
作家という職業の性質上、志望者の中では最も多いタイプと思われるが、よほどの実力を持っていないと、現代社会では生き残るのが難しい。
直接型と象徴型の二パターンに分かれる。
フョードル・ドストエフスキー
(代表作:「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」)
直接型の代表。19世紀を代表する大作家の一人。
人間にとって「罪とは何か」「悪とは何か」「神とは何か」を考え続け、伝え続けた。
その思想の壮大さに比例してか、ドストエフスキーの小説の登場人物はとにかく話が長い。
百ページくらいぶっ通しで喋り続ける人が、普通に出てくるので、集中して読まないと訳が分からなくなる。
どれも現代日本の小説を読みなれていると読みにくく感じるが、処女作「貧しき人々」「虐げられた人々」は比較的読みやすい。
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村上春樹
(代表作:「1Q84」「ノルウェイの森」)
象徴型の代表。物語の内容がほとんどメタファーでできているため、字面だけならばすいすい読めるが、深く考えるととても難解である。
象徴型は、物語が読者の価値観を揺さぶるための装置であると考えているため、そこから何を読み取るかは、(あるいは何も読み取らないかは)個々の読者に委ねられている。
他に思想型に分類される作家。
三島由紀夫(直接型)、ウィリアム・ゴールディング(象徴型)など
独自型
読者のことは余り考えず、自分独自路線を突っ走るタイプ。
職人型とは逆に、自分のやりたいことに読者を巻き込むタイプである。
才能がなければ生き残れない作家の中でもまれな才能がなければ、生き残れないのがこのタイプ。
吉村萬壱
(代表作:「クチュクチュバーン」「臣女」)
「この人は、何を思って、こんなに不愉快で気持ち悪い物語を書くのだろう?」
という不思議な人。
でも、読んでしまう。好きな人には、たまらない世界なのだろう。
どんなものにも需要はあるのだ、ということを分からせてくれる作家。
「クチュクチュバーン」に収録されている、「国営巨大浴場の午後」がおすすめだが、
この本に収められている三作品とも同じテイストの話なので、途中で飽きるかもしれない。
トマス・ピンチョン
(代表作:「V」「重力の虹」)
何度もノーベル文学賞候補にあげられながら、詳細がよく分からない謎多き作家。
非常に寡作なので、全作品制覇も簡単だろう、と思いきや、余りにクールでシュールな作風なので、読んだ内容がまったく頭に入ってこないので、通読することが困難である。
初心者向けは「競売ナンバー49の叫び」だが、読んだはずなのに何も覚えていない。
このタイプの他の作家
江戸川乱歩、竹本健二、京極夏彦など
唯一無二型
独自型に似ているが、独自型が何から影響を受けているのかなんとなく想像がつくのに対し、その時代に突然変異のように生まれ出てきたのが特徴。
一体、どこからやってきたのか、どこへいくのか。本人に聞いてみたいタイプ(死んでいますが。)
フランツ・カフカ
(代表作:「城」「変身」)
ある日、朝起きていたら虫になっていたり、
仕事に呼ばれたお城にどうしても入れなかったり、裁判にかけるというから出頭したのに、裁判が開かれなかったり、父親に突然死ねと言われたり、そんな作品ばかり。
結局、何が何だか分からないまま、悲惨な結末を迎えるシュールな作品が多い。
夢野久作
(代表作:「ドグラ・マグラ」「少女地獄」)
三大奇書のひとつに数えられ、「読んだものは必ず気が狂う」というキャッチフレーズで有名な「ドグラ・マグラ」の作者。
「瓶詰めの地獄」という超短編も書いているが、これ一作だけでも才能が分かる。