前回紹介した小説「グインサーガ」の46巻までの感想です。
前回の記事はコチラ↓
46巻までの感想
主のグインサーガは46巻で完結しているので、紹介を兼ねて感想を語りたいと思います。
「辺境ノスフェラス編」1巻「豹頭の仮面」~5巻「辺境の王者」
記念すべき始まりの巻。
モンゴールに攻め込まれて滅ぼされたパロの王子レムスと王女リンダが、人が住まない死の砂漠の辺境ノスフェラスで、記憶を失った豹頭の戦士グインに出会うところから物語が始まります。
ノスフェラスの生態系や、なぜ地理的には中原に近いのに、ノスフェラスのみこのような環境になったのかなど謎が盛りだくさんで、物語の導入からワクワクさせてくれます。
イシュトヴァーンやアムネリスのキャラクターが、多少定まってはいない感じがしますが、それも後になるといい思い出です。
「クリスタルの陰謀編」6巻「アルゴスの黒太子」~10巻「死の婚礼」
砂漠と密林のノスフェラスから、華やかな文明の都クリスタルへ。
原始的な冒険と戦いから、陰謀と駆け引きの世界へ。
急激に物語の主軸が変わるのですが、ひとつの世界観としてまるで違和感がないところがすごいです。
モンゴールに占領されたパロでは、国王の甥であるクリスタル公アルド・ナリスとモンゴールの公女アムネリスとの政略結婚が進められていました。
作者の大のごひいきのナリスや、ナリスの弟アル・ディーン、草原の国アルゴスの太子スカールなどが登場して、グインサーガという物語の全体像が見えてきます。
話が文明圏に戻ったので、この時代の食べ物や着るものなどの風俗の描写が出てくるのですが、栗本薫はこういった描写がめっぽう上手いです。
アムネリスが婚礼で着る三着のドレスの描写は、いつ読んでも上手いなあと思います。
「冷やしたカラム水」とか「オリーおばさんの肉まんじゅう」とか「アツアツのカバブ」とか、なんであんなに食べたくなるんですかね。
アルゴスの黒太子―グイン・サーガ(6) (ハヤカワ文庫JA)
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「パロ奪還戦争編」11巻「草原の風雲児」~16巻「パロへの帰還」
レムスが王になりパロに帰還し、モンゴールのヴラド大公が死に、モンゴールが滅亡するまでです。
主はヴラド大公もモンゴールという国も大好きなので、寂しかったです。
イシュトヴァーンが建てたモンゴールは、もはやモンゴールではないと思います。
真のモンゴールとは、青年ヴラドのギラギラした野心が作り上げた、蜃気楼のような国だったのだと思います。
アムネリスはヴラドの子供とは思えないほど平凡な恋する女性なので、ヴラドが死んだと同時にモンゴールも死んだのでしょう。
1巻から長く続いた黒竜戦役の最後を、市井人であるトーラスのゴダロの「神様、ありがとうございます」という言葉で占める感覚が、すごく好きです。
ここから長い巻数を経て、グインがゴダロと会ってオロの最期を伝えますが、そのシーンも感動しました。
こういうことがあると、長い物語っていいなあと思います。
「ケイロニア編」第17巻「三人の放浪者」~第23巻「風のゆくえ」
パロを出たグインが、北の大国ケイロニアで王位継承争いに巻き込まれる話。
すごいなと思うのが、ケイロニアが街の様子から宮廷人の様子まで、パロとまったく雰囲気が違うということが、感覚で分かるところです。
グインが感じているのと同じように、実際に自分が旅をしたかのように、パロとケイロニアはぜんぜん違うということが感じとれます。
パロとケイロニアだけではなく、草原の国、クム、モンゴール、ユラニアそれぞれ独特の雰囲気があり、それが読んでいて伝わってきます。
文章だけで読者にここまで感じ取らせることができる。才能としか言いようがありません。
作者は「ケイロニア編はオル窓やるよ~」と遊んでいるわけですが、遊んでいてこれかいというくらい面白いです。
個人的には、ケイロニア編が一番面白いと思います。
グインは強いだけではなく、頭も切れるということが分かり、いよいよ超人化していきますが、そこに我儘王女シルヴィアとの恋をのっけてくるところもまたいいです。
主は、女性陣の中ではシルヴィアが一番好きなのですが、まさかあんなことになってしまうとは……orz 可愛そうで仕方がありません。
パリスの気持ちがよく分かります。
ちなみにシルヴィアの件で、ハゾスが大嫌いになりました。ぺっ。
22巻から、挿絵が天野喜孝さんになりました。
「グインのユラニア遠征編」
第28巻「アルセイスの秘密」~第30巻「サイロンの豹頭将軍」
ケイロニアの王位簒奪の陰謀の裏にユラニア公国の存在があることを知ったグインが、ユラニアに潜入する話。
物語の面白さもさることながら、ゴーラ最後の皇帝サウルや名高きユラニアの三醜女、世界三大魔導師の一人・「闇の司祭グラチウス」など個性的な登場人物がたくさん出てきて楽しいです。
サウル皇帝をとりまくゴーラ宮廷の落ちぶれた様や、三人の公女の容貌の描写など圧巻です。
一般には叙景的に描く事柄を、叙情的に描くところが栗本薫の持ち味だと思うのですが、この辺りの描写の仕方は天賦の才としか言いようがないです。
特にユラニアの三醜女。
色とりどり、それぞれ違う趣向のブ〇をこれだけ生き生きと描けるところが、すごすぎます。
ただ、政治的な陰謀劇の影に悪の魔導師がいて糸をひいていたという結末は、個人的には余り好みな展開ではないので残念でした。
サイロンの豹頭将軍―グイン・サーガ(30) (ハヤカワ文庫JA)
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「モンゴール奪還編」
第24巻「赤い街道の盗賊」~第27巻「光の公女」 第31巻「ヤーンの日」~第33巻「モンゴールの復活」
いよいよ、イシュトヴァーンが「俺は王になる」という野望に向けて一歩を踏み出します。
一巻から探し求めていた「光の公女」に出会い、徒手空拳の身からモンゴールの将軍の座にまで上りつめます。
個人的には、この辺りから当初の物語から話がそれてきた印象です。
イシュトヴァーンが一巻から言い続けた「王になる」という野望に対して、疑いを持ち始めた辺りから雲行きが怪しくなってきました。
思想小説なら、「生き方をどうすべきか」「自分とは何なのか」ということで悩むこともけっこうなことだと思うんですが、「エンターテイメント小説で登場人物が内省し出したら、物語がグタグタになる」という生きた見本になっています。
一巻から言っていた「自分は生まれたときに王になると予言された。だから、絶対に王なる。今に世界中の人間がオレの名前を知るようになる」という野望を見失ったら、物語上ではアイデンティティを喪失したも同然です。
新たなアイデンティティを悩みながら打ち立てるというテーマになったら、もう別の小説になってしまいます。
ということで、この辺りから迷走の匂いがしだします。
赤い街道の盗賊―グイン・サーガ(24) (ハヤカワ文庫JA)
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「ナリス・リンダの婚礼編」第34巻「愛の嵐」~第39巻「黒い炎」
パロではナリスとリンダが結婚して、優雅な生活。それを耳にしたイシュトヴァーンのブラック化が加速するお話しです。
個人的には、この三人にはそれほど興味がないのですが、それでも面白く読めてしまうのがグインサーガのすごいところです。
イシュトヴァーンの真のお相手・カメロンが来て剣の誓いをするのですが、この辺りの流れはけっこううんざりします。
主がアリびいきで、イシュトヴァーンのブラック化や鬱化を全てアリのせいにされるからなんですが。
もともと残酷な面もあったんだし、そのまま「ゴーラの僭王」になるでも別に違和感はなかったのに、何が何でもイシュトは悪くなくて他に悪い奴がいるという流れにしたいのか、とうんざりしました。
「対ユラニア戦」第40巻「アムネリアの罠」~第46巻「闇の中の怨霊」
シルヴィアがさらわれ、グインの長い冒険が始まる物語。
久しぶりにグインとイシュトヴァーンが再会し、ケイロニアとモンゴールそれぞれの国で将軍になった二人が共闘し、本来ならばワクワクする展開です。
しかし、この辺りから「かわいそうな幼子のように寂しがりやなイシュトヴァーン化」が止まらず、グインまでアリをディスりだしたのを読んで、希望が完全についえました。
百歩譲ってアリの下衆キャラ化は仕方ないにしても、「子供みたいに可愛くて、お姫様のようにはかなげなイシュト」ってなんだよ。
ナリスやイシュトに対する作者の自己投影が激しすぎて、何かあったのではないだろうかと疑うレベルです。
「そういうことは、グインじゃなくて別の物語を作ってやってくれ~~~」
という読者の悲痛な叫びが上がり始めたのが、このころです。
この後の巻も一応、興味がありそうな箇所だけ読んでいます。
シルヴィアとグインの修羅場とか。
アムネリスの最期とか。
まったく好きではなかったけれど、あの人も可愛そうな人でしたね(遠い目)
まさか、フロリーのほうが「勝ち組」になるなんて、想像がつきませんでしたよ。
噂によると、ナリスの葬式だけで一巻使ったらしいですね。
一行で死んでもらって、ぜんぜん構わなかったのですが(-_-メ)
アリストートス最期の巻。
初めて登場したときは、野望の道を突き進んで、血まみれの手で玉座をつかみとったイシュトの頭に王冠をのせるアリの姿を想像して、ワクワクしていました……。
まさか、こんな最期を迎えるとは……orz
あの頃の自分のときめきを、返して欲しいです。
「燃え上がる憤怒の炎!」って、
……それは、こっちのセリフだ!!(# ゚Д゚)
気が向いたら、47巻から先も読もうと思います。