昨日、はてブであがっていたこれが面白かった。
差別の構造を皮肉っていながら、それをまったく気にしなくても読めるエンターテイメントに仕上がっている。
短編でこれができるってどういう力量だ、と思ったら、作者は既に商業作品を出している人らしい。(ブコメで知った。ブコメは何でも知っているな)
さっそくポチった。
カクヨムで読めるみたいだが、長編は紙の本が一番読みやすい。
「犯罪者には田中が多い」はアイディアも面白いし、次々とネタを畳みかけるタイミングもうまい。十行に一回はクスリとしてしまう。
一番いいなと思ったのは、文章のリズムだ。
同じアイディア、同じネタ、似たような内容でも、文章にここまでリズム感がなければ面白くなかったと思う。
そういう意味では、短編小説はお笑いに近い。普通に聞いたらちっとも面白くないことが、呼吸やタイミングや間で笑えてしまう。
「もう長いこと魔法を使っていないが誰もツッコミを入れない。」
このフレーズ、畳みかけられるたびに吹く。
自分が一番好きな文章はこれだ。
「人生最大のトラブルが確定申告失敗である僕には出しえない、田中だからこそ描ける重みと深みがそこにあるのだ。」
声に出して三回唱えたくなる。
自分が理想としている文章は、「読んでいる人が思わず歌いたくなる」文章だ。
書かれていることの意味を理解する前に、そのリズムが読み手の感性と共鳴する、と無理やり言葉にするとそういうもの。
ごくたまにリズム感を最優先にした文章に挑戦することがある。後から読むと余りうまくいっていない。
流れるように読めてしまいながら、勘所では立ち止らせたり、読み終わったあとにポイントにおかれる小石のように心に何かが残っている文章が理想だが難しい。
流れが滞っているか、何も心に残らないか、ひどいときはその両方の場合がある。
文章もある程度は訓練や慣れだとは思うが、一定まで書きなれたあとはセンスじゃないかなと思う。
本当にうまい文章を読むと、それを自分が書けるようになるイメージなり道筋なりが思い浮かばない。
「犯罪者には田中が多い」を読むと、このレベルの面白さを長編で維持できるのかということに興味がわく。
陸上の短距離と長距離と同じで、短編と長編では一定のレベル以上にいくと求められるものがまったく違うと個人的には思っている。
なので、本が届いて開くのが楽しみだ。
漫画を試し読みしてみた。アイディアはぶっ飛んでいるが、設定はしっかり練られていて面白そう。