うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

2020年3月30日に行われた東京都記者会見における厚生労働省クラスター対策班・西浦教授の報告を聞いての雑感。

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3月30日(月)20時から行われた東京都の記者会見の中で、西浦博教授の会見部分の雑感。

 

自分の理解における話なので、正確な情報は東京都のホームページで確認してください。

※東京都のホームページで実際の動画の視聴、会見内容を読めます。

小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和2年3月30日)|東京都

 

動画の10分30秒~17分45秒あたりまでとそのあとの質疑応答の部分を見ての雑感。

資料に基づいて話しているのに、資料を映してくれないのが辛い。都が工夫して欲しかった。どこも公表していないので、禁転載資料なのだろうか? うーむ。

 

自分が今回理解したことまとめ

厚生労働省クラスター班の現在の目的と、その目的に即した方針は「医療崩壊を起こさないために、オーバーシュート(感染者数の爆発的増加)をいかに防ぐか、防げないのであればいかに早めに予知することでそれを遅らせて、体制作りの時間を与えるか」

つまり

「オーバーシュートを起こさない、仮に起こってしまっても遅らせることによって医療崩壊を防ぐ。そのために予測をいち早くする」

「医療崩壊を起こさない」

ことを目的として分析を行っている。 

 

「感染者数予測図」のなだらかな曲線を目指す(ピークを遅らせる、ピーク時の重症患者数が医療で受け入れられる限度を超えないようにする)ことを目的としている。

自分のような市民の感覚だと

「感染者数が増えた、大変だ」

と思いがちだが、専門家の話を聞くと「感染者数の増加のしかたが想定の範囲内に収まるうちはうまくいっている」と考えている。

今の時点では恐らく指数関数的な増加の兆候があるというところがわかっているのですけれども、

ここ一週間程度の東京都での感染者数の増加が爆発的な増加でないことを確認するためにこの分析をリアルタイムで実施してきていますが、今の時点では指数関数的にはその兆候はありますが、爆発的増加ではないと考えられます。

(「令和2年3月30日東京都記者会見」より/太字は引用者)

 

 「現在のところその予測の範囲内に状況が収まっている」ことを根拠に、方向性として間違っていないということで方針を立てているのだと思う。

 

しかし一市民の自分はこれを聞いて思う。

「いやいや、でもわからない。この先、爆発的に増えるかもしれない。今、曲線内に収まっているからと言って、じゃあ明日もそうだと保証できるのか? 『曲線内に収まっているからいい』じゃなくて、「爆発的増加が絶対に起きない」と言えないなら、その可能性をゼロに近づけるために都市封鎖なりなんなりやったほうがいいのではないか? 欧米のような大変な状況になってしまうのではないか」

先行きが見えなくて不安な中で、そう考えてしまう。

専門家は恐らくそのあたりの思考が全然違う。

 

あくまで

「オーバーシュートが、現時点でどれくらいの確率で起こりうるか」

「自分たちはその目的のために、調査・分析を行っている」

この目的意識が一切ぶれない。

 

どういう調査をするかということなんですけれども、他の調査を実施しながら、私たちがオーバーシュートと呼んでいるような爆発的な患者数の増加がない蓋然性が高いことを僕たちで確認をさせていただいています。

(「令和2年3月30日東京都記者会見」より/太字・赤字は引用者)

 

このカウントを見ていく中で、気をつけないといけないことというのは、これまでヨーロッパで見られてきたことなんですけれども、イタリアであったり、フランスであったり、スペインであったり、いわゆる指数関数的な感染者数の増大が見られるところでは、二、三日に一度のペースで感染者数が倍増するペースで増えてきました。

東京都の場合も、確定日別のデータを見ていて先週来で見ていると、10名未満の日があったのちに16人、17人になりそれが40人になり、60名に増えているという風に移り変わっていく、というのがだいたい二、三日に一度のペースで起こっていたので、これで指数関数的な増大があるのかないのかというのをちゃんと判断すべく、データの分析をしてきたんですね。

今日ここで報告させていただいていることとも関連するんですけれども、今の時点での評価では、指数関数的な感染者数の爆発的な増加が本格的に始まったという証拠が今の時点ではありません。

 (「令和2年3月30日東京都記者会見」より/太字は引用者)

 

他の国のような状況になるには、その兆候が数字として表れていた。今のところ、「その兆候=証拠がない」だから「爆発的な患者数の増加がない蓋然性が高い」ということになるのだろう。

 

他の人の記事で「西浦教授は感染症の数理モデルでは能力が傑出している」という話を読んだ。

しかし神さまではないから、「絶対に100パーセント起きない」とは言い切れない。

 「絶対」「確実に」とは言い切れないが、自分の仕事は「オーバーシュートが起こるのか起こらないのか」の予測を、なるべく確実性の高いものにすること。(『絶対』は無理だとしても)

何故なら、今のところの方針は「ピークを遅らせて、なだらかな曲線でこの感染症を収束させることだから」(この方針が転換すれば、方法もおのずと変わるだろうけれど、今のところは方針は転換されていない⦅転換する根拠が今のところはない⦆)

ここからブレない。

 

なぜ「オーバーシュートが起きない蓋然性が、今のところは高い」と言えるのか、その根拠を、今後の感染者数の予想と共に説明してくれている。

まず図1がこの一枚目の紙の下側にありますので、ご覧ください。

これは東京都における国内発生例、リンクがあるなしに関わらず、東京都で感染が起こったと考えられる人の数に関して、横軸を発病日付として検討しているものです。

実際に黒の〇が観察値と書いていますけれども、これまでに報告された感染者の発病日を基にプロットをしているものですね。

それに対して黒の線があるのですけれども、それが3月30日までのデータ、つまり昨日までに報告されたデータを基に、理論的な数理モデルを適合した結果です。

数理モデルでは感染者数が指数関数的に増加していると想定をしてこのモデルを適合しているのですけれど、ここ最近の一週間程度では感染者数の減少が曲線でも見られていると思いますけれども、それは発病から確定診断を受けて報告されるまでの遅れ、約一週間少々を反映しているために最近の日付の感染者数は落ちています。

 

ところが青い線だったり赤い線というのは、一週後、二週後に発病日を横軸にして同じような流行曲線を描いたときにどのようになるのかというのを予測したものです。

同じ率で、推定されたものとまったく同じ率で指数関数的な感染者数の増加が認められた場合には、一週後に同じ最近の発病日付でも青い線くらいまで感染者が積みあがっていって、二週後には赤い線のように積みあがっていって、というような予測が得られています。

 

今の時点では恐らく指数関数的な増加の兆候があるというところがわかっているのですけれども、ここ一週間程度の東京都での感染者数の増加が爆発的な増加でないことを確認するためにこの分析をリアルタイムで実施してきていますが、今の時点では指数関数的にはその兆候はありますが、爆発的増加ではないと考えられます。

図の中に赤い文字で示していまけれども、今後一週間の七日間で期待値としては88人の報告があると考えられ、その翌週には217人が期待される患者数であろうと考えられます。

カッコの中にあるのが、95%信頼区間の上限です。

来週、今から数えて一週間のあいだに、95%信頼区間の上限値になる患者数は244人と推定され、その次の週の七日間で想定される95%上限区間の患者数が647人。

これらはいずれも国内発生例で予測される患者数です。これに加えて輸入感染者が加わるのですけれども、それが図2になります。

2ページ目の図2をご覧いただければと思うのですけれども、同じく発病日を横軸にして、輸入感染者の報告された数に関して、観察値が黒丸、黒い曲線というのがこれまでのモデルの解を表しています。

青の線と赤の線が一週後、二週後に発病日を横軸にするとこうなるというのを示しています。

多くの輸入感染者というのは減少傾向に入りつつあるように見えるのですけれども、この先もまだ日本に帰国される法人のかたがいらっしゃることが想定されます。

今日を含んで今後七日間で期待される感染者数というのは35人、その翌週に新たに期待される患者数が輸入感染者だけで94人、上限値がこのカッコにある通り、先ほど同様なんですけど今週で157人 その翌週で459人、という風に想定されます。

これらと国内発生例を足した数が実際に発病日付別で、今後一週間ごとに想定される患者数ということになります。

(「令和2年3月30日東京都記者会見」より)

 

細かいところはさっぱりわからないけれど、「95パーセントの確率で起こる事柄の中で、一番悪い状況を想定したとしても、二週後に想定される新規感染者数が1106人 (国内感染者647人+輸入感染者459名)」ということでいいのか? いや、怪しい。……資料があればわかるのかな。

*ここの部分をわかりやすく説明している何かがあったら、教えてもらえると嬉しいです。誰か動画でやってくれないかなあ。

 

恐らくこの予測を壊す可能性を持つものが、第八回専門家会議でも連呼されていた「孤発例」。「孤発例」とそうでない感染者とでは、まったく意味合いが違うようだ。

 

「感染者数が増えた」と聞くだけで気持ちが重くなるのだけれど、専門家の話を聞くと「感染者が増えるのは想定内だし、感染ルートが追えるならば対処できる」(なだらかな曲線を描く範囲内であればよい)と考えている。

「孤発例」が増えて感染ルートが追えなくなるのが、大問題らしい。

「孤発例」は出てくるたびに「出た」と呟きたくなるくらい、頻繁に力をこめて出てくる。

 

今回も「夜間の接待飲食業」が指摘されて気の毒だなと思うが、データだけを分析するとここが最大の焦点のようだ。

確定日を基にした流行曲線のうちの白い部分にそうとうするのが、その特定業種の場で暴露されたことが疑われる方々なんですけれども、だいたい最近の約30パーセントが、最近二週間の30パーセントの患者がそれに相当します。

(「令和2年3月30日東京都記者会見」より/太字は引用者)

 

暴露が疑われる場所に関して、遊戯場と言われるような場所、パチンコ店だったり雀荘というようなものは、今の時点では報告がありません。(略)

今回報告させていただいた業種に関しては、基本的には風営法で一号と呼ばれるようなところであったり、手持ちの資料の中で米印の二番三番というような深夜営業をしているような接待飲食業に相当するところに集積をしているのが特徴です。

 (「令和2年3月30日東京都記者会見」より/太字は引用者)

 

今回一番、驚いたのがこの部分。

むしろ孤発例の分析を必死に進めてきているわけなんですけれども、孤発例の中に特定の夜の街で感染している人が多くて、その人たちの接触歴は夜の街で終えているので、そこを止めると何とかなるのではないかと。

コミュニティで広く伝播しているわけではないんです。

これはとっても東京都にとって、ラッキーなことなんですね。

夜の街での伝播、特定の業種での伝播ということを皆さんに強く要請をしながら止めることができると、まだ制御できる可能性があるデータであると判断をしています

 (「令和2年3月30日東京都記者会見」より/太字は引用者)

 

今の状況と「ラッキー」という言葉の落差に、一瞬世界が回った感覚に陥った。

目に入る耳に入ってくる情報(他の国の状況も含む)日ごろ感じている空気感を受け取りながら過ごしている「社会の中で日常を送っている自分の不安や危機意識」の体感は、「一体、この先どうなるんだろう」というもので、「ラッキー」「制御できる可能性がある」という言葉とはとても相容れない。

でも自分が標本のひとつとしてのみ数えられるデータ分析の世界では、まだまだなだらかな曲線を描いて、感染症が収束する可能性がある。

 

西浦教授のような人は、後者の世界で物を見て力を尽くす人なのだ。感染症対策は、そういう物の見方による方針や対策でやっていくものだから、その分野ではこの人たちに頑張ってもらうしかない。

 

この落差が激しい二つの世界の橋渡しをするのが政治家の役目では、と思う。

自分たちが標本に変換されるデータの世界では、「孤発例」が問題なのはわかる。それが抑え込めれば、なだらかな曲線に収まる可能性があるという予測が蓋然性が高いのもわかる。

でも二週間後に感染爆発が起こるかもしれなくても、今日の生活をやめるわけにはいかない。

飲食接待業の人の中にも、会見で言われていることは百も承知でも、今日生きるために店を開けなくてはいけない人もいると思う。

ただそれを西浦教授のような専門家に対して「仕事をしないで死ねと言うのか」と言うのも筋が違うのはわかっている。

専門家の人は専門家の人で、「正直なお話をすると、私もかた唾をのみながら、毎日感染者数のカウントを見てきました」こういう胃の痛くなる思いを抱えながら、毎日自分ができることを多くの人のためにやっているのだろう。

 

こういう「データ分析の専門家の世界」の言葉をわかりやすく市民に伝えて「今はこういう目的でこういうことをしている。この先Aという状況になったら、こういう方針を取るし、Bという状況になったらこういう風になる」と説明するのは政治家の仕事だ。

専門家が「孤発例を防げれば、まだ制御できる可能性がある」というなら、「どうしたらその孤発例が出てくることが防げるか」を考えて対策して欲しい。

「孤発例にならないように皆さん、それぞれ頑張ってください」と言うだけでは困る。

 

カリフォルニアの州知事の説明は、すごくわかりやすい。

まあ6割は感染すると覚悟してください。

ただ、それをゆっくりにします。いっぺんに感染者が出ないようにするんです。

そうすると、発病した人がいっぺんに増えなければ病院でちゃんと治療ができるから、死亡率も下げられます。人工呼吸器もちゃんと与えられるし、薬も投与したりして助けることができます。ただ、その数がブワーッと増えちゃうと、病院がいっぱいになって医者も足りなくて死亡率が高くなります

 (町山智浩 ロックダウンから2週間が経過したアメリカの暮らしを語るより)

 

「医療体制を崩壊させないためにオーバーシュートを起こさないことを目的とする」

「感染者数をなだらかな曲線のうちに抑える」

方針は日本と同じだけれど、カリフォルニア知事の説明ならば子供でもわかる。

 

こういう風に説明してくれれば、「何が一番問題なのか」「孤発例がなぜまずいのか」「政府が何を思って動いているのか」がわかりやすく、安心する人が多いと思うのだけれどな。

 

 

二日後の2020年4月1日の「新型コロナウイルスに関する専門家会議の状況分析&提言」の尾身副座長の話を聞いた限りでは認識の齟齬(?)があった模様。

実際は「オーバーシュートが起こるかなり前に、医療体制の機能不全が起こる可能性がある」そうだ。

www.saiusaruzzz.com