うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

「信頼のできない語り手」と「信頼のできない視点」についての雑談

【スポンサーリンク】

 

先日見た「かまいたちの夜」の解説動画の中で、「『かまいたちの夜』は選択肢を間違うと、主人公がプレイヤーにとって『信頼のできない語り手』に変貌する」という考えが述べられていて面白いなと思った。

 

「信頼のできない語り手」は何か作為があったり、もしくは能力的な理由があって、「実際はこうである」という出来事の誤った解釈や印象を伝える人物を語り手にすることで、読み手の認識をミスリードしたり、「語られないこと」を強調する手法だ。

 

「信頼のできない語り手」は文章のコンテンツで用いられる手法だけれど、漫画やアニメのバージョンで「信頼のできない視点」という手法があるのではと「私の正しいお兄ちゃん」を読んで思いついた。

www.saiusaruzzz.com

 

「私の正しいお兄ちゃん」以外では、「鉄血のオルフェンズ」がこの手法を使っている。*どちらも個人的な考えです

普通、物語の作成者側のメッセージやテーマというものは演出で強調されるが、「鉄血のオルフェンズ」は逆である。「これが正しいと思われること」が、演出であたかもそれほど「正しくないこと」のように見えるようになっている。(逆も然り。)

しかもその手法で統一されているわけでもなく、「制作者のメッセージと演出」が噛み合っている場合もある。

(「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」感想&くっそ長い物語の分析&総評

 

この発想が物語内に組み込まれているのが「うみねこのなく頃に」で(*ネタバレ反転)「読み方」「装飾」という語で説明されている。

ある事実に装飾を施したり、読み方の節回しを変えたりすると、同じ出来事なのにまるで違った風に見える。

「嘘はついておらず事実を描写しているけれど、ある特定の人物に肩入れしたり、ある一定の視線のみから物事を見せたり、その行動の意味を違う風に見せることで読み手をミスリードする」

演出のしかたによって、読み手の読み方を物語が表すものと別の方向にあえて誘導する手法を「信頼のできない視点」と名付けた。

「『見えない信頼のできない語り手』が設置されている」と考えてもいいかもしれない。

 

面白い手法だけれど、作り手側から見ると手間がかかるわりには効果を出すことが難しいんじゃないかと思う。

①描写する出来事が小説における「地の文」に当たり嘘がつけないので、下手なやり方だと誘導の意図を見破られてしまう。

②逆に余りにうまくいってしまうと、表面を覆っている「信頼のできないもの」だけを受け取られてしまう可能性がある。

③①と②のバランスを取ることが難しいうえに、①に転んでも②に転んでも作品の面白さを致命的に損なう。

④読み手に作り手に対する信頼を失わせるリスクがある。

そう考えるとひとつの出来事を何種類もの「信頼のできない視点」で見せることで、読み手が真意に気づく可能性を増大させる「うみねこのなく頃に」の手法は、革新的な発明だなと思う。

 

「私の正しいお兄ちゃん」が、意図してああいう作りなのか、特に意図せず何らかの理由で奇跡的にああいうものができたのかはわからない。

奇妙に聞こえるかもしれないけれど、自分の考えでは作者が「信頼のできない視点」であることもある。

それがマイナスに働くのではなく、だからこそ面白い作品があるところも創作の面白さだ。

 

「真のテキスト」は誰が(何が)決定するかは、作者でも読者でもなく「テキストが所属する共同体によって定義されている言動の意味合いによって定義づけられたものから演繹して、おのずと決定される」というのが今のところの考えだ。

「現代批評理論のすべて」のP26「受容理論」とP62「ポスト・モダン批評②-グローバル化と解釈の多様性-」あたりにその話に関連する話が載っている。

現代批評理論のすべて (ハンドブック・シリーズ)

現代批評理論のすべて (ハンドブック・シリーズ)

  • 発売日: 2006/03/01
  • メディア: 単行本
 

ただ個人で楽しむぶんには、読み手が好きに解釈していいのではと思っている。

 

この考え方を前提にすると、「信頼のできない語り手」と作者の視点が対立しているときに「信頼のできない語り手」が信頼できることがある、という逆転現象が起こることがある。該当する作品が何かあったと思うのだけれど……思い出せない。

 

「世界の十大小説」を読むと、モームはドストエフスキーを「信頼のできない視点」だと考えていた節がある。

「そんなことがあるわけない」「こんな人間いるわけない」「その行動に対するその解釈は違う」と言いながら、「でもすごい小説なんだよ(何でかわかんねえけど)」というところに「だよなあ」と同意してしまう。

世界の十大小説〈下〉 (岩波文庫)

世界の十大小説〈下〉 (岩波文庫)

 

 

*「信頼のできない語り手」を用いた作品の中で、自分が好きなもの。

「語り手のマトリョーシカ構造」が面白い。

嵐が丘(上) (岩波文庫)

嵐が丘(上) (岩波文庫)

 

 

「信頼のできる語り手」と「信頼のできない語り手」が混じり合っている。

グロテスク 上 (文春文庫)

グロテスク 上 (文春文庫)

  • 作者:桐野 夏生
  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: Kindle版
 

 

クリスティーの作品の中で、個人的なベスト。

暗い抱擁 (クリスティー文庫)

暗い抱擁 (クリスティー文庫)

 

 

 読んでいてどんどん不安になるところがいい。

 

他の人の解釈を読まなかったらリスク②にハマりっぱなしだった「多崎つくる」

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)