うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【小説感想】久しぶりに遠藤周作「沈黙」を読んで、その残酷さと美しさに気づく。

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突然、読みたくなって遠藤周作の「沈黙」を読んだ。

沈黙(新潮文庫)

沈黙(新潮文庫)

  • 作者:遠藤周作
  • 発売日: 2013/03/01
  • メディア: Kindle版
 

 

初めて読んだのは学生時代なので、十何年ぶりだ。

学生時代に読んだときは、最後の結末に強く衝撃を受けた。こんなに残酷なことがあっていいのかと思った。

たぶんそのせいだと思うのだけれど、そこに至るまでのストーリーは結末のために存在するという捉え方だった。 最後を迎えるために積みあがるひとつひとつの石のように考えていて、読んでいて退屈に感じていた。

 

今回読んで驚いたのは、その結末に至るまでの過程が退屈どころではないことだ。

すさまじく陰鬱で残酷な力が籠っている。まるで見えないところにいる誰かの冷笑にさらされているような、薄暗く冷たい空気を読んでいるあいだずっと感じる。

ロドリゴ神父の目から見る、長崎の農民たちは何のために生まれて生きるのかわからないほど、惨めで貧しく苦しみに満ちた存在だ。

村は貧しく、苦役を背負う村人たちは薄汚く、自然は冷たく残酷で、出てくる食事はことごとく腐っている。

明るく美しいものが何ひとつ出てこず、この世界で貧しい人のために生きたいと願う司祭の祈りも、なぜ罪のない人たちがここまで虐げられなければならないのかという疑問も苦悩もすべて無視される。

「沈黙」は、物語自体が静かで沈黙している。

司祭がどれほど叫んでも、農民たちがどれだけ過酷な拷問を受けても、村人が海につけられ長い時間をかけて殉教していくときも、話が盛り上がることもなく、ただシンとした静かな空気の中で物事が進んでいく。

何も起こらない、明るさが欠片もない暗い世界で、ただ人が理不尽に苦しみ死んでいくのを見続ける。

この静かな残酷さが異様に美しく感じられる。

 

「沈黙」はテーマとしてキリスト教を扱っているが、宗教の素養がない自分から見ると、自分が最も尊いと思うものを踏みにじられる残酷さを描いた話に見える。

それがどれほど簡単に粉々になるのか、それがどれほど人間にとって残酷なことか、そして「粉々にされるところを見ることでしかその美しさはわからないのではないか」ということが一番残酷なところではないか、と読んでいて思った。

自分にとって宗教とはどういうものかと問われると、「神がいようがいまいがどちらでもいいし、どちらにせよ自分には関係ないものだ」というのが正直なところだ。

「神がいるのか、いないのか」という問いに、そこまで関心が持てない。

多くの宗教をテーマにした創作や宗教の成り立ちについて読むと、「神がいてもいなくてもどちらでもいい」と本心から思える自分はとても恵まれているのだ、と思う。

あえて言うなら、その恵まれていることに関して、「自分が神について考えなくていい境遇に生まれたこと」を、自分は(こう言っていいのかわからないが)信仰している。

 

「自分が最も尊いと思うものを粉々にされる残酷さと、その残酷さと共にしか現れることのできない美しさ」は、こういう本で読んで知るしかない。

「沈黙」は人の尊厳が破壊されるその骨の音まで聞こえ、その骨の音を響かせる静けさがどれほど恐ろしいか教えてくれ、その恐ろしさを以てそれがどれほど尊く美しいかを教えてくれる。

そういうすさまじい力が籠った小説なのだ、と再読して気づいた。

 

「イエスの生涯」と「キリストの誕生」も合わせて読んだけど忘れている。再読したい。

イエスの生涯

イエスの生涯

  • 作者:遠藤周作
  • 発売日: 2013/03/01
  • メディア: Kindle版
 

 

キリストの誕生

キリストの誕生

  • 作者:遠藤周作
  • 発売日: 2013/03/01
  • メディア: Kindle版