夏休みなので、読書中。
一巻を読み終わった。
やっぱり面白い。
以前、他の人の記事で「書籍の本は映画みたいなもので、Web小説は連載漫画みたいなものだから、書くときはその違いに気をつけたほうがいい」というものを読んだ。
「グイン・サーガ」の一巻は、連載漫画の初期のお手本みたいな作りだなと思う。
それでいながら「全百巻*1の壮大な物語の幕開け」としても十分機能している。
★とにかく動きが多く、展開がスピーディー
小説は戦闘シーンを文章で描写するのがけっこう大変だが、「グイン・サーガ」の一巻はほぼずっとバトルをしている。
それも対化物戦、一対一の格闘戦、砦の防衛戦とバラエティに富んでいる。
次から次へと状況が変わるのに、まったく違和感がない。
★特殊設定が多い、謎が多いのに初読でも違和感なく話についていける。
ファンタジー小説だからその世界特有の用語が多く、設定も説明しなければならない。
普通は読者はその設定を消化するだけで精一杯になる。
「グイン・サーガ」一巻は、この情報の出し方が上手い。
主人公のグインが記憶を失っている設定なので、グインに双子が世界のことを説明するというやり方で読者が世界観を知っていく。
そのため違和感なく世界のことを知っていくことが出来る。
あとはいっぺんに説明するのではなく、少しずつパズルのピースをはめるように情報が出てくるので、段々と頭の中に世界観が形作られていく。
主人公のグインも同じ状態だから、置いてきぼり感がない。
★登場人物が次から次に出てくるが、キャラが立っているので混乱しない。
一巻だけで、登場人物が次から次へ出てきて、展開の速さと相まって飽きは来ない。
逆に、飽きは来ないが展開が早すぎてついていけない。初めからキャラクターが多すぎて、誰が誰だがわからなくなる。
そう言えばグイン・サーガはこういうことがほとんどなかった。
どのキャラも出てきた瞬間に、脳内にすぐにイメージが固定される。
キャラ付けが上手い。
豹頭の記憶喪失の戦士、銀髪紫眼の双子の王子と王女、人よりは猿に近いセム族の女の子と出てきた瞬間にすぐに見分けがつく。
外見で言えば若干普通の青年であるイシュトヴァーンは、陽気なおしゃべりという設定だから、自己紹介を喋りまくる。
★一巻の展開だけで十分楽しめるが、さらに後の展開に続く謎や伏線が山のように張り巡らされる。
・グインが名前以外で覚えている、唯一の単語「アウラ」とは何なのか。
・双子をノスフェラスに送り込んだパロの古代機械とは何なのか。
・滅ぼされたパロは、今どうなっているのか。
この後の展開で明かされるだろう、謎が次から次へと出てくる。
最大の謎は記憶を失って倒れていたグインとは何者なのか。
この謎を主人公グインと読者が共有しているのは大きい。全百巻読むモチベーションになる。
グインが記憶を失っているだけなら、百巻読むほどのモチベーションにならないかもしれない。
「なぜ豹頭なのか」「なぜ、ノスフェラスの言語がわかるのか」そして皆から憧れられる威厳に満ち溢れた無敵の超戦士というグインの魅力が、正体を知りたいと思わせる。
一巻だけでも十分面白いのに、今後の展開への引きの連続、それでいながら展開に強引さや不自然さがひとつもない。
どうしたらこんなものが書けるんだろう、と今さらながら衝撃を受けた。
栗本薫の怖いところは、これをそんなに考えて書いているわけではないのでは、と思うところだ。
どこかの巻の後書きで「最初は地図さえ書いてなかった」と言っていた記憶がある。
こういう妄想? 空想が次から次へ出てくるんだろう。
ノスフェラスの怪物ひとつひとつもそれぞれ個性があったり、中原の国もそれぞれで文化や風習や価値観が違うところとか、それだけで楽しめる。
設定の揺れも多いけれど、それを差し引いても一人の人間の頭にこれだけのものが生まれるのか、と驚愕する。
自分だったら、頭の中に世界に行ったまま帰ってこれなくなりそうだ。
久し振りに読んだから、初読に近い興奮が味わえた。
40巻くらいまでは間違いなくこの面白さが味わえると思うと、既読にも関わらず先が楽しみだ。
*1:この時点で