うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【アニメ感想】「迷家 ーマヨイガー」全12話には文句しか出てこないが、そこで語られなかったことに意味があるのではないか。

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*この記事にはアニメ「迷家ーマヨイガー」のネタバレが含まれます。

 

三話まで見た感想。

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アニメ「迷家ーマヨイガー」全12話を見た。

考えれば考えるほど、文句しか出てこない。

 

・間が悪いために、聞いていて居心地が悪くなる会話。

・展開が強引。

・キャラが唐突に自分のトラウマや事の真相を話し出す。

・モブと大して変わらないキャラが多すぎるのは仕方がないが、サブキャラでさえ扱いが中途半端でまったく活かしきれていない。

・肝心のトラウマが掘り下げが少なく紋切り型になっている。

・話の焦点がブレまくる。

・というすべての要素が重なった上での、強引なラスト。

 

最大限好意的に見れば「尺が足りなかったのかな」という大人の感想になってしまう。

一般的には「駄作」の部類に入ってしまうので、まったくおススメしない。

 

ただ言葉として感想を語ると、出てくるのは駄目な部分ばかりなのに、意外とこの作品が好きだと感じる自分がいる。「つまらなかった」のひと言では済ませられない何かがあった。

 

「どこかで見たことがある話だな」と思うし、他の人の感想でもとある作品に似ているという意見が多かった。

でもこの話には、この話にしかない「何か」があった。

 

「この作品のどこが気になったのか」を話しながら、その「何か」について合わせて考えたい。

 

「迷家ーマヨイガー」で一番気になったのは、話の要素が多すぎるところだ。

その要素同士がうまく絡み合っておらず、そのため要素の全てが消化不良のままで終わっている。

 

この話の大きな要素は二つある。

①主人公・光宗と颯人、真咲の三角関係。

②父親のために納鳴を育てようとする、こはるんの思惑。

 

①にはさらに、光宗、颯人、真咲それぞれのトラウマも絡む。

全12話でトラウマというテーマに取り組むならば、①のみを扱うのが精一杯だろう。

「マヨイガ」は①に加えて②がある上に、さらにサブキャラたちの人間模様やトラウマまで描いているために、全てが中途半端で印象が薄くなってしまっている。

主要キャラである颯人のトラウマが、本人がいきなりベラベラ話し出す、というのはその典型だ。

そんなに抵抗なく全てを話せるなら、そもそもトラウマにならないのでは、という以前に、それを言葉で説明してしまっては面白くない。

 

颯人のそれまでの言動の異常さに比べると、颯人が話すトラウマの内容、その回復の仕方がひどくアンバランスだ。

自分に何をしたわけでもない縛られた状態の女の子に、あそこまで憎悪と殺意を向けられる心情を、颯人が話したようなテンプレートのようなトラウマが生み出せるとはとても思えない。

光宗を支配するために無力でいさせよう、自分に依存させようとし、さらにそのために邪魔である真咲に向ける憎悪(としか言えない)には凄みがある。

演出の仕方でさらりと見せているが、颯人が光宗に向ける執着と支配の欲求は異常だ。

せっかくのそういった面白い要素を、全力でつまらないものにしてしまっている。

 

ヴァルカナも面白いキャラだ。

「三話までの感想」で書いたが、ヴァルカナは言葉と行動が終始一貫して矛盾している。

ヴァルカナも「人の責任を負わされたくない」と言う割には、運転手に細い道を強引に行かせるような「ツアー参加客やバス会社に対して責任を負わなければならないような言動」を取るので、訳が分からない。

三話で「人の責任を負わされたくない」という言葉を聞いて、一話二話の言動は何だったんだと首を捻ってしまった。「責任を負わされたくない」なら、むしろずっと黙っていないか。

「三話までの感想」では、ヴァルカナの言動の矛盾がおかしく見え突っ込んでいるが、最後まで見ると、ヴァルカナは何だかんだ言っているが、責任感が強く、人を思いやる気持ちが強く利他的な人間なのだということがわかる。

「言葉はツン全開で絶対にデレないが、行動は徹頭徹尾デレているカリムのイーゴンタイプ」だ。

余りに言葉の上でのツンがひどいので、矛盾しているように見えてしまうのだ。

 

ジャックと氷結がなぜ、こはるんにあんなに心酔したのかも経緯が省かれているため唐突に感じる。

ジャックと氷結がヴァルカナたちを見失ったときに、罰として殴り合うシーンがある。

「誰も見ている人間がいないのに、お互いに罰を与え合うルールを順守する」

というのはかなり怖い話だが、これも深堀りされるどころか、深刻に描かれてさえいない。(このシーンは、個人的にかなり怖かった)

 

真咲の納鳴であるレイジが孤独から生まれたイマジナリーフレンドだ、というのもありがちな展開だし見せ方も上手くない。

なぜ、その存在に真咲が十何年もすがらなければならなかったのか、幼いころならまだしも、あの年になっても、何もかも捨てて納鳴村に来るほどレイジを必要としていたのは何故なのか、ということはストーリーに描かれていない。

その十何年の重みに比して、ストーリー内でレイジの存在を手放せた理由が「出会ったばかりの光宗の存在」では余りに軽すぎる。

 

「迷家ーマヨイガー」は、要素のひとつひとつを手に取ってよく見ると、黒く恐ろしいものが混じっている。

ところがそれにテンプレ的な要素を混ぜこんで口当たりよくしていたり、さらにテンプレ的なだけのものの中に無造作に放り込んだりしている。

そのため全体的に見ると、様々な要素が噛み合わずすさまじくちぐはぐで、どこに視点を合わせていいかわからない。

 

ラストが、こういった話ではありがちな「トラウマを受け入れてみんなで脱出する」という終わり方にならなかったのは何故なのか。

この話において、「納鳴村に残り、ここで生きて行くことを肯定したものは何なのか」ということは一切語られない。

キャラ一人一人が持つ深くて暗い穴は、ちぐはぐで強引でご都合主義な展開、何も解決していないのに終わってしまった唐突なラスト、間が悪く寒い会話、取って付けたテンプレ的なトラウマによって覆われ、訳がわからないまま終わってしまった。

本来であればそれこそが、何十話でも費やして語られるべきものではないか。

 

自分がこの話に惹かれるのは、話の一番奥に「最後まで一切語られなかったもの」が埋め込まれているように思えるところだ。

「語られなかったものそのもの」ではなく、「語られなかったという結果」に惹かれている。

それは何故語られなかったのだろう?

語れなかったのか、語らなかったのか、語りようがないのか。

 

こはるん、ヴァルカナ、リオン、ジャック、氷結、熱帯夜、山内、ソイラテ、鳥安という村に残ったメンバーが山を見つめる後ろ姿が最後に映る。

この図に「迷家ーマヨイガー」という話の本当の面白さがあったのではないか、と思えて仕方がない。(残ったメンバーのその後の村での様子を見てみたい。)

全12話にわたってぎこちなく語られた「テンプレのようなトラウマと対峙をするストーリー」は、この図の意味を隠すためだけに存在したのではないかとすら思えてしまう。

 

「語らないこと」「語れないこと」にもう少し軸足を置いていたら、この話はいま形になっているものとはまったく違う、今まで見たことがない暗く底知れない話になっていたかもしれない。

それを見たかった。