うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【漫画感想】「逃げ上手の若君」既刊6巻まで。北条時行が主人公の貴種流離譚。いいなと思ったところ、気になったところ。

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鎌倉幕府最後の執権・北条高時の息子で、幕府が滅んだあと、わずか八歳で流浪の身になった北条時行の一代記。

 

「鎌倉殿の13人」が面白いこともあり、馴染みがない人物なのでこの時代のこともわかるかなと思って読んでみた。

 

特徴的なデザインのキャラで構成される、世界観が魅力的。

主人公とその仲間(逃若党)以外は、ほぼおっさんしか出てこないが、すべてキャラが立っており、ひと目で覚えられる上に魅力的。

デザイン+ひと言説明で、どんなキャラかがすぐにわかる。

余りキャラの外見に興味を持たないほうだが、「逃げ上手の若君」は新キャラが出てくると「どんな外見の特徴か」ということに目がいく。

「キャラのデザイン」や「特徴」が非現実的で、そのデザインや特徴によって世界観が作られている。

メタ視点の現代ネタを入れられても違和感なく楽しめる。

(引用元:「逃げ上手の若君」1巻 松井優征 集英社)

 

頼重が出てきた瞬間に、「こういう世界観の話なんだな」とすぐにわかり引き込まれる。

歴史モノだから、という枠にとらわれない世界観の構築の仕方は、「封神演義」がそうだったなあと思い出した。

文王が姫伯の肉を出されたシーンを、クッキング教室で手ごねハンバーグ作りに例えたり、武王の「プリンちゃーん」というセリフなどに突っ込みを入れるという発想にならないのは、作品の世界観に引き込まれているからだ。

視覚からの情報だけで、その作品独自の世界に引き込まれる。キャラを眺めているだけでも楽しい。

 

歴史の本流以外の場所で何が起こっていたかがわかりやすい。

後世から歴史を振り返ると、「歴史上の主要な出来事」以外の場所で何が起こっていたか、どんな日常だったかということはわかりづらい。

時行は幕府滅亡後、諏訪頼重を頼って諏訪大社に身を寄せる。

この時、信濃地方でどんな勢力がどういう風に争っていたかが背景として描かれている。

頼重の支配下で、元々信濃にいた武士たちと、後醍醐天皇から守護を命じられた小笠原貞宗と国司に任じられた清原信濃守が領土争いをしている。

この構図も戦の状況も本来はかなり複雑だろうが、わかりやすく説明されていてすんなり飲み込める。

権力から権力の移行期で、こういうことが全国で起こっていたのだろうなと想像も膨らむ。

 

主人公・時行が可愛い。

「逃げ上手の若君」で一番いいところは、主人公の時行だ。

 

鎌倉幕府が滅ばなかったとしても、時行はお飾りの執権になる予定だった。飼い殺しのような人生を歩む運命が約束されていたけれど、そのことに対して負の感情をほとんど表さない。

(引用元:「逃げ上手の若君」1巻 松井優征 集英社)

 

幕府が滅んだあとも、自分の運命を呪ったり嘆いたりすることがない。

人が自分をどう見るかとか運命が自分をどう扱うかには文句を言わず、自分が何をどう見てどう動くかだけを考えている。

しかもその視線がとても優しい。

 

作内で周りの人間が時行に一目置き従う理由として、「気品やカリスマがある」と何度か言われる。「設定」と読者の認識にズレが出来てしまう場合もあるけれど、時行は幼くとも周りの人間が貴種として敬うことが納得がいくキャラだ。

瘴奸が時行に「仏」を見ていたが、見ているだけで癒される。

この話は悪役や敵役にもどこか愛嬌や凛とした部分があり、誰一人として嫌いになれない。

無能で非道な国司・清原信濃守も、後醍醐天皇に気持ちを理解してもらえたと思って人が変わったように奮起するところを見ると、気持ちがわかって憎めない。

 

歴史モノだと登場人物の運命がわかっているので、先を考えると憂鬱になることが多いが、「逃げ上手の若君」はこの雰囲気だと史実に即していても、明るく希望が持てる終わり方になるのではと思っている。

成長した逃若党が見たいので、ぜひ時行の人生の最期まで描いて欲しい。

 

 

ちょっと気になった点

物事がスラスラ進みすぎなところが、読んでいてい気になった。

例えば時行と郎党たちは最初から強い絆で結ばれていて、人間関係の軋轢のようなものが一切ない。玄蕃が仲間になる時に、多少試練があったくらいだ。

征蟻党との戦いは、「最強」であるはずの腐乱ですら出落ちだった。

吹雪が玄蕃にしていた「いざとなったら殺せる、という武器を隠し持っているとそれ自体が凄みになる」というアドバイスに通じるものがあるが、「もしかしてとんでもない危機に陥るのでは」と思うことがない。

「まあうまくいくんだろう」という変な安心感が常にある。

個人的には、「進撃の巨人」のような、主人公がいてさえ皆殺しになるのではないか、どうにもならないのではないかという絶望感があるほうが好みなので、この点はかなり気になった。

 

史実そのものが悲惨だから、少年漫画に合うように重い雰囲気は出さないようにしている、読み手の感情にストレスがかからないようにしているなど、配慮しているのかなとも思うので、難しいところだけど。

 

尊氏の描き方を見ると、この先の展開は徐々に重くなっていくのかもしれない。期待を込めて読み続けようと思う。

何より時行が可愛いので行く末を見守りたい。