先日買った「世界」3月号に、「冷戦期の大量殺害をグローバルに考察する」というタイトルで「ジャカルタ・メソッドー反共産主義十字軍と世界を作りかえた虐殺作戦」を紹介している記事があった。
共産主義思想への弾圧は戦前の話は比較的伝わってきている。
ただ冷戦下の話だと文化大革命や天安門事件、スターリンの粛清やキリングフィールドなどの共産主義側の残酷な歴史は知っていても、反共陣営の話はそう言えば知らないなと思った。
本書が描いているのは、アメリカが冷戦に勝利した背景にはCIAが東南アジアや中南米で展開した共産主義者絶滅プログラムがあったという、冷戦史の暗部である。
(引用元:「冷戦期の大量殺害をグローバルに考察するー『ジャカルタ・メソッドー反共産主義十字軍と世界を作りかえた虐殺作戦』」松野明久 世界2023年3月号 P242)
これだけ読むと「陰謀論っぽいが本当かいな」と思ってしまうが、
アルゼンチンの軍事政権が左翼撲滅を目指した「汚い戦争」では、フランスが拷問技術の伝授から思想教育、抑圧的法制度のアドバイスまで行っていたとされる。
欧米諸国の中南米へのこうした関与の暗部についてはすでに研究の蓄積もあり、本書もそれらに依拠している。
(引用元:「冷戦期の大量殺害をグローバルに考察するー『ジャカルタ・メソッドー反共産主義十字軍と世界を作りかえた虐殺作戦』」松野明久 世界2023年3月号 P243/太字は引用者)
そう言われると、じゃあ読んでみようかなという気になる。
冷戦下は苛烈な陣営争いだったから、どちらか片方が際立ってひどかったというわけでもない……とは思っているが、考えてみるといわゆる白色テロ(赤狩り)の話は余り知らない。*1
「ジャカルタ・メソッド」も知らなかった。
自分は過去に色々書いている通り、共産主義思想自体にはかなり*2懐疑的だ。自分の考えと相入れない部分が多いので、今後も支持することはないとは思う。
ただ「共産主義がヤバいのは歴史のあの事件を見れば明らかだ」という考えには、それはそれで「?」と思う。
「とんでもないことをする奴らが信じている思想は危うい。そしてとんでもないことはしていなくとも信じている奴ら全員が危うい」
そう思い、自分が理解できないものをまとめてカテゴライズする。
冷戦下の対立はそういう構図だったと思う。
それにしても鉄の壁の両側でどうしてこうも反対勢力の容赦なき大量虐殺が行われたのか。それは、敵を疾病やウィルス、虫などに例えていることからもわかるように、相手を修正不能な存在とみなすところから来ている。(略)
その「害毒」は教育や改造によっては取り除けない、種としての存在そのものを消し去るしかないと考えるのである。こうなるとほとんどジェノサイドである。
(引用元:「冷戦期の大量殺害をグローバルに考察するー『ジャカルタ・メソッドー反共産主義十字軍と世界を作りかえた虐殺作戦』」松野明久 世界2023年3月号 P245)
理解できないものは怖い。「だから理解せず切り分けもせず、まとめて徹底的に潰す」歯止めがかからなくなると、そういう発想になってしまいがちだ。
冷戦下の白色テロやマッカーシズム、文化大革命やスターリンの粛清は思想は対立しているが、同じ発想で行われたものだと思う。
「自分とは考えが違うものは存在そのものを排除する」
自分が違和感を覚える思想が覆う社会も怖いけれど、「当たり前」「正しい」と思っている思想でも極端になれば社会も人も不寛容になって恐ろしいものになる。
そういうものに人が囚われるのも怖いし、自分が囚われるのも怖い。
「返校」をプレイするまでは、台湾の白色テロの歴史を知っていてもあそこまで暗い時代だったとは思いもしなかった。文化大革命の状況とたいして変わらない密告社会だ。
「返校」はゲームとしてはそれほど面白くなかったが、そういう暗い時代の神経がキリキリするような感覚をホラーとして味合わせてくれたところが凄くよかった。
「自分が受け入れている思想が自分が違和感を覚える思想を徹底的に弾圧する社会にいたら、どう感じるのか」ということを体感させてくれる。そういうコンテンツは貴重だなと思った。
「火山島」も読めていない。