「正しくない」人たちの話であり、家庭内暴力、ネグレクトなどが、キツイ描写ではないが、モチーフとして出てくる。
気になる人は読まないほうが無難。
そうではない人には、ぜひ読んで欲しい。
九つの話が入った短編集だけど、全部良かった。
自分にとっての一位は間違いなく本書タイトルでもある「夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない」だ。
「私はあの子を尊敬する」
「隣人よ、志は共にある」
「耐えろ、隣人よ。私たちは、生まれる場所を選べない」
「そのことを誰かに覚えていて欲しくて」
26ページでこれだけ深く潜れるのか。すげえ。(小並感)
この作品集の話の背景には、常に無形の暴力がある。
無形の暴力にさらされ、少しずつ壊されていく人の姿が見ていて辛い。
だが、無形の救いについても描かれている。
大抵の場合は、救いとすら言えない無力でささやかなものだが。
形のない暴力と形のない救い。
こういうものに囲まれて生きている。
本当に凄いものを見たときは、記号としての言葉は空しい。
どれだけつらねても、自分が「見た」ものは共有できない、ということを確認するだけになってしまう。
自分が読んだこの話と、あなたが読んだこの話は同じくらい深く、だがまったく違う。
そのことが嬉しい。
その深さの一番底……夢の中でもし出会えたら、良かった、と言い合える。
それは、例え夢であっても救いになる。
そういうことがそのまま描かれている。
創作を読むとは、自分固有の眠りの中で一人で夢を見るものだ。
しかし一人で深い眠りにつきながら、同じ夢を見ることが出来る。
そういうことを思い出させてくれる。
「職業としての小説家」の中で村上春樹が語った「小説を書くことには向かない人」について考えたこと。|うさる|note
創作をこういうものだと考えている自分にとっては、創作の力はこういうところにあると再び確認できた作品だ。
2021年の最後にこの本に出会えて、本当によかった。