うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

「ひとり出版社」ってどうなの? 調べてみて感じたこと、考えたことまとめ。

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情報が多様化している今は、本に限らず「大勢のターゲットに向かって作る」よりも「必要としている人を絞って、その層に最適化したものを作る(発信する)」方向にさらに進んでいくのでは、と思う。

本を作成・販売するまでの過程を考えるとツールを使えば一人でも出来そうだ。動画もゲームもアプリも個人が作れる時代なのだから、本も作れるだろう。

一人で作れて販売も出来るなら、一人で出版社をやっている人がいるのでは。

そう思って調べたら下記の二冊が出てきたので、試しに読んでみた。

 

「ひとり出版入門 つくって売るということ」は、「本を作るまでの工程」や「販売方法の種類」などが書かれている実践的な本だ。

「小さな出版社のつづけ方」は「小さな出版社」がどのように活動しているかについて、実際の出版社にインタビューを行っている。

 

この二冊を読んで感じたことをまとめると

「趣味でやるなら楽しい。ビジネスとして成り立たせるのはそうとう戦略的にやらないと難しい」

だ。

業種によって細かい違いはあっても、独立して仕事をする場合大元の課題はほぼ同じだ。

「この部分で安定して利益を出せるという目算がないなら、独立するのはやめたほうがいい」

これに尽きる。

 

「安定して利益を出せる(出しやすい)モデル」をどう作るか。

「小さな出版社のつづけ方」では、各社の工夫やスタンスが紹介されている。

 

例えば新聞社を辞めた人が作った「ブルーシープ」は、美術館や博物館で展示会を開催・運営するノウハウを持っており、来場者向けに販売する図録を作っている。

①展示会の図録をもっときちんと作り込めば、一般書店でも売れるのではないかというアイディアがあった。

②図録作成は、その部分のみを委託されるので、売れる要素を詰め込もうとしても自由に作れない。

③展示会の企画・運営もやれば図録を自由に作り込める。

④展示会開催を丸ごと請け負う会社を作った。

⑤図録を作り込み、展示会での販売部数を伸ばす+一般書店で販売し、同時に展示会の宣伝を行う。

という戦略を取っている。

展示会が図録販売のターゲット層の集客場になっており、図録が展示会の広告宣伝になっている。

これは新聞社に勤めていた時に社主催の展示会を担当していたので知識や人脈がある、という強みが大きいようだ。

 

他にも「地元のミニコミ誌作成を請け負っている」「副業としてライターやフリーの編集者をしている」「まったくの異業種の仕事をメインにしているが、それに関連した情報誌を作っている」「東北地方に絞った地図や歴史書を作り、印刷会社も地元で頼み、販売書店も地方に絞って地産地消している」など多種多様なやり方が出てくる。

 

「一人出版社」をメインの仕事として運営した場合、一冊当たりどれくらい売れば利益が出るのか。上記の二冊を読んだ限りだと、単価3000円の本であれば1000部、単価1000円であれば3000部売らなければならない。

作った本の在庫を置いておく場合は、その場所代がかかる。売れているからといって増刷をかけたら、突然売れなくなり大量に返本される可能性もある。かと言って刷っておかなければ売れている時に品切れになってしまい、せっかくの好機を逃してしまう。

「物」を販売する仕事は難しい、と読めば読むほど思う。

「在庫をどれだけ持つか」は、その業種で経験を積まないと見極めが難しそうだ。

 

①編集

②印刷(製本)

③広告宣伝

④流通

⑤販売

常時:在庫管理

の過程も印刷所も今は技術が発展して安価で出来る、広告宣伝や販売はネットで出来る。

だがそうは言っても、販売の時の梱包の手間など一人でやると意外と細かな作業に追われやすい。

「売れるものを作れるかどうか」がまず大きな壁だが、その先の「売るという行為を一人でこなす」のもかなり高い壁になる。

「全部一人でやる」と「作業の多さ」がネックになる。かと言って、人を雇うと人件費がかかるし、その人の生活を維持する責任も生じる。

在庫管理、発送、販売をひとまとめに出来る取次やトランスビュー→書店の従来のルートを使ったほうが結局は経費が削減できるが、そうすると利用料がかかる。

 

「ひとり出版社を作る人」は元編集者(出版社務め)の人が圧倒的に多い。一人二人デザイン関係の人がいたが、それ以外は全員元編集者だ。

出版社を作ったきっかけは「自分が理想とする本を作りたいが、出版社勤務では企画が通らない」という人がほとんどだ。

皆「本(物理)」に思い入れがあって、自分の「理想的な本」のイメージを持っている。

好きの方向性が「情報発信」ではなく「形ある物作り」なのだ。一人出版社を立ち上げる人にとって、「本」は「情報ツール」ではなく「心を込めて形作る物」なのだと感じた。

 

「小さな出版社のつづけ方」に登場する出版社の中で「港の人」の上野さんの言葉が、特に印象的だった。

売上が伸びないから食えないと言いましたが、売上が伸びることがいいことなのか。

本というのは発行部数100部の世界もあるということを僕は知って欲しい。100部があることに価値があるし、それを丁寧につくることに意味がある。

(引用元:「小さな出版社のつづけ方」永江朗 猿江商會/太字は引用者)

この言葉を読んで「『小さな出版社』はこういうものなんだろう」と感じた。

「一人でやること」は何でもそうだけれど、最後の支えは自分しかない。そもそもが「儲かりにくい(成功しにくい)形態」のものの場合、自分の中に強い意思がないと難しい。

「商売としてやる」という以外の根本に、「本というのは100部でも存在すること自体に意味があるのだ」のような、「本」に対する信念がないと今の時代に「一人で本を作り続ける」のは難しそうだ。

 

自分も「本」が好きだけれど、それは「形ある物作りとしての本」ではなく「情報ツールとしての本」だ。

思ったよりも向いていないと感じたが、色々なケースの話を読んだりすることや、そのうえで色々と考えることが楽しかった。