うさるの厨二病な読書日記

厨二の着ぐるみが、本や漫画、ゲーム、ドラマなどについて好き勝手に語るブログ。

【「藪の中」愛好会】芥川龍之介「藪の中」のような話を集めてみた。

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「藪の中」は慣用句として用いられるくらい有名だが、「関係者の話が食い違っていて、真相がよくわからない話」のことだ。

芥川龍之介 藪の中

 

こういう話をもっと読みたいが、調べかたが難しい。(「藪の中みたいな話」「藪の中に似た話」で調べても余り出てこない)

自分以外にも「藪の中愛好家」がいると思うので、自分が「これは良い『藪の中』」と思うものを載せておきたい。

 

「月明かりの道」ビアス

芥川龍之介は、この話に触発されて「藪の中」を書いたと聞いたので読んでみた。

雰囲気はおどろおどろしさ満載の古き良きゴシックホラー調でいいのだが、真相がひとつしか解釈しようがないので若干期待外れだった。

「藪の中」のオマージュ元だが、「藪の中」ではない気がする。(ややこしい)

 

「滝」奥泉光

自分の中では今のところイチオシ「藪の中」。

とある宗教団体の通過儀礼として山岳修行をする少年たちが、次第に狂気に飲み込まれていく話。

「藪の中視点」と「藪の外視点」で成り立っている。

ミステリー、サイコホラー、少年同士のブロマンス、どの角度から見ても完成度が高く、話が終わったあとのそこはかとない怖さとモニョリ感が凄い。

「藪の中」好きなら絶対に満足してもらえると自信をもって勧められる一作。

セットになっている「ノヴァーリスの引用」もやや「藪の中」風味な話なので、二作合わせておススメ。

久し振りに読んだらやっぱり面白かった。

 

「柔らかな頬」桐野夏生

自分が不倫しているあいだに、行方不明になった五歳の娘を探す女性の話。

一体、娘はなぜいなくなったのか。

誰かにさらわれたのか。生きているのか、死んでいるのか。

一番最初に読んだ時は意味がわからなかった*1が、少し前に再読して余りの面白さに驚いた。

「藪の中」は人の心の暗喩だ、ということがよくわかる話。

芥川賞ではなく、直木賞を受賞している。

 

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」村上春樹

仲のいい四人の友達から、突然縁を切られた主人公がその理由を探る話。

「藪の中」とは気づかせない「藪の中」。

余りにうまく「藪の中」が機能しすぎてしまったせいで評価されているところを見かけることが少ない不遇の書。(自分も最初読んだ時は曖昧な訳がわからない話だと思った……反省)

仲のいい友達からいきなり理由も告げずにいっせいに疎遠にされたことを十何年もほったらかしにしていたところを見ても、多崎つくるは心の一番奥では「藪の中」に眠るものの恐ろしさに気付いていて逃げようとしていたのでは。

そう考えるとよりいっそう怖さが増す。

それを暴いてしまうととても人の手に負えないから「藪の中」にしてしまうことがある、と気付かせてくれる。

 

「五匹の子豚」アガサ・クリスティー

ミステリーなので厳密には「藪の中」ではないが、関係者の手記で成り立っているという作りが「藪の中」に近い。

ポアロが認めている通り、証拠が一切ないので「藪の中」(ポアロの妄想)と言えば「藪の中」とも言える。

解決編はなかったことにして、手記から自分で色々な解釈(妄想)を組み立てても面白い。

クリスティーの著作で一貫している「人は見たいものしか見ないが、一方で自分でも思いもよらないことを覚えている」という考えは、「藪の中」を生み出すのに最適の考え方だと思う。

 

「一方通行の家」屋嘉壱

ジャンプ+に掲載された読み切り漫画。

すごく面白かった。

「多崎つくる」と同じように、主人公が自分の手には負えないと本能的に気付いていて逃れようとしていることから、よりいっそう「藪の中」の恐ろしさが際立つ話*2

表層的な部分だけを読むと、曖昧で訳が分からない話なところも似ている。

今後もこういう話をたくさん書いて欲しい。

www.saiusaruzzz.com

 

好きすぎて自分でも書いてみた。

行方不明事件の関係者の証言を一人ずつ聞いていく話。

15000文字、全5話の短編。

タイトルは「藪の中」リスペクトで「洞窟の中」。

https://ncode.syosetu.com/n6654ii/(なろう)
https://kakuyomu.jp/works/16817330661054818558(カクヨム)

「藪の中」好きの人、良かったら読んで下さい。

 

まとめ:ジャンルとして確立して欲しい。

「藪の中」は今のところ、読んでみないと「藪の中」かどうかがわからない。

そのため見つけるのが凄く難しい。

見つけやすいように、できればジャンルとして確立して欲しい。

 

*1:「藪の中」あるある。

*2:個人的な感想です。